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落下の解剖学のlanouvelleluneのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
滑り出しから耳を劈く ‘I don’t know what you heard about me’ で『あなたが現在ご覧になっているのは仏映画です』。米メジャー映画はこう(作品全体の雰囲気に合わない曲を使うことは)しないし、しないことに美徳を見出す傾向があるような気がするが、仏映画は彼らに比べ色々な面でよりナチュラルを求める印象。だから作業中の50 Centというのは瞬間的に腑に落ちた。これがリアルでしょう。
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何が現実で何が想像であるかを微妙に区別して伝える方法を、制作陣なりに編み出したのが良かった。本作では子ども、しかも常に頭の中で現実とは異なるイメージを想像しながら生活することを強いられている子どもだったが、別に大人でも健常者でも大して変わりはない —— 記憶などというものはいとも脆く、ほとんど幻であると。一抹の疑念、数分間の他人との接触でぐにゃぐにゃになるし、究極的には持ち主の思うように形を変えることが各所で伝わる。
最終盤で親子が互いを抱きしめるシーン、子がまるで親のような体勢になっていることにゾッとした。事実が定かでない中「自分の記憶はこうである」と自分で決めた人間は、それが生む結果に一生苛まれると... 悲鳴のようにも聞こえる彼の泣き笑いが刺さった。
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