RYUYA

落下の解剖学のRYUYAのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
「今の俺ならあの時の渡部さんの気持ちわかる」

そんくらい急激にムラついてしまった夜に、観た。劇場を出る。歓楽街には目もくれず、駐車場までの道をわざと遠回りして、50セントのP.I.M.Pのインストをループしながら帰路に着き、風呂場でも布団でもこの映画の事を考えていた。ヌキ無しで大満足の1日だった。翌朝には「渡部さん、やっぱアレはあかん」に戻ってました。

豪華キャストでついつい撒き餌されて、真犯人や真相を知りたいとハァハァしてしまう自分のような犬野郎を、定期的にこういう映画が正気に戻してくれる。年々増えてきてるけど、やっぱ「真相はこうでした!犯人は意外なあの人でした!」だけで終わる、"ヌキがあるだけ"の作品って、面白いけどクソつまんない。今作はクソ面白かった。

「これは事故か、自殺か、殺人かー」という求心力のあるポスターの文言だけど、この映画が描いているのは明確に「殺人かー」の"ー"の部分だった。もちろん3択でめちゃくちゃいい将棋指してくるんだけど、緊張感が高まりすぎてまばたきすら勿体なく感じてしまうあの終盤のやりとり、圧巻でした。

舞台は山荘と法廷、ほぼそれだけ。
登場するのは殺人容疑をかけられた作家と、盲目の息子と、友人の弁護士と、犬くらい。
現場検証や裁判のリアルすぎるやりとりもあったりして、台詞は多め。でも重要なシーンは表情で掴まえさせる。思った。なんてカッコいい映画の撮り方なのよ。152分、無駄なし。IMAXで観る映画より没入させられた。

冒頭の数カットでまず持ってかれたし、「過去」を出すタイミングとかもマジでやられて、特に"音声"のシーンは怖すぎた。子どもに見せられない夫婦の事情を、見えない子どもに見せてる。震撼しました。そっから判決後、最終盤のシーンたちが本当に凄まじかった。余韻エグい。抜けない酒。そして改めて、役者さんって、演技って、すんごいわ。ザンドラ・ヒュラーさん。骨抜きにされました。

この映画を観て、俺は真相が分からない推理モノの方が好きだという真相が分かりました。毛利小五郎もビックリの傑作。
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