耶馬英彦

Four Daughters フォー・ドーターズの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

3.5
 4人姉妹の長女と次女がイスラム国に参加した話だ。どうしてそんなことになったのか。姉妹の母親の独善とパターナリズムがかなり酷い。しかもそれを娘たちに強制する。強制する手段は暴力だ。
 母親は女だけの家庭で育ち、男たちから身を守るために暴力に訴えるしかなかったと言う。母親にとって暴力は日常的な手段であって、娘だけではなく、夫にも暴力を振るう。日本ではそんな母親の存在は極めて特殊だが、イスラム教の国々では、割と一般的にあるようだ。
 娘たちは母親の暴力の被害に遭いながら、母親を恨んでいない。高度成長期くらいまでの日本の体罰教師が生徒から恨まれなかったのと同じだろう。体罰教師が怒りにまかせた体罰を、愛のムチだと言い張ったように、本作品の母親も、自分の暴力を正当化する。自分が娘たちに独善を強制して暴力を振るうのは、自分も母親からそうされたからであり、それは代々受け継がれる呪いなのだと言い張るのだ。恐ろしいほど身勝手な理屈である。

 長女と次女は、母親の独善から逃げ出したかった。自分で考える知能のある人間は、理不尽が許せないし、理不尽な目に遭うことに耐えられない。しかし、イスラム教の国で女性が家族や母親の呪縛から逃げ出す手段はほとんどない。そこに訪ねてきたのがイスラム国の説教者である。
 イスラム原理主義は、長女にとって母の独善を完膚なきまでに否定する大義名分であったのだろう。そこにしか自分の未来はないと思い込んでしまうのは、仕方のないことだ。ある意味で長女は難民である。母親から追い詰められて、自由も権利もなく、未来もない。逃げ出す以外の選択肢はなかった。

 ドキュメンタリー作品だが、映画を撮る名目で三女と四女と母親に自分の役をやらせることで、上手に本音と事実を引き出している。この手法を使った作品は、はじめて観た。
 引き出されたのは悲惨な事実だが、娘たちの本音が、母親の独善とパターナリズムを完全否定するまでには至っていない。なにせ母親はまだ生きている。人格を完全否定しては、母親の人生そのものを否定することになる。家族愛が娘たちの目を曇らせている訳だ。代々受け継がれている呪いが消えるのは、三女と四女の時代になるだろう。酷い話だったが、イスラム教が人々の心を如何に歪めているかを、期せずして炙り出していた。
耶馬英彦

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