てっぺい

関心領域のてっぺいのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
【耳で見る映画】
収容所の隣に住む家族の日常。所内の映像がない事で、鳴り響く銃声や叫び声に耳を通じて想像が止まらない。その映画的発想力と音の効果に、国際長編映画賞と音響賞獲得が大納得。

◆トリビア
○ヘス夫妻は、アウシュヴィッツ強制収容所で最も長く所長を務めた夫妻がモデル。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/関心領域_(映画))
〇クリスティアン・フリーデルはヘスを演じるにあたり、グレイザー監督から「真実を語る時は目で嘘をついて、目で真実を語る時は言葉で嘘をつくように」と助言をもらったと明かす。(https://natalie.mu/eiga/news/574459)
〇ヘートヴィヒ役を演じたザンドラ・ヒュラーは「家族の住んでいた場所を初めて見たとき、とても驚きました。アウシュビッツ収容所のこんな近くに住んでいたなんて。そして瞬時に彼らがしなければならないことを理解しました。それは、その事実を忘れて生きていくことです。全員が常に同じ緊張感を持って信頼し合い、“何気ない普通の日常”を描き出す努力をしました」と複雑な役を演じた際のモチベーションを明かしている。(https://www.cinemacafe.net/article/2024/03/31/90850.html)
○ポーランド人の少女は監督が調査中に出会ったアレクサンドリアという女性にインスパイアされている。抵抗運動員だった彼女は飢餓に苦しむ囚人のためにリンゴを置くため収容所まで自転車で通っていた。映画で使われている自転車や衣裳も彼女のものだという。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/関心領域_(映画))
○劇中に登場するヘス家の愛犬ディラは、ヘートヴィヒを演じたザンドラ・ヒュラーが自身で飼っている犬。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/関心領域_(映画))
〇実在したルドルフ・ヘスの暮らしを綿密にリサーチしていた監督は、家の様子をリアルに再現。さらに環境や演技にもリアルを追求し、通常の映画撮影では必須である照明を使用せず、カメラマンも排除。別室でモニターを確認しながら撮影を行ったという。(https://otocoto.jp/news/thezoneofinterest0517/)
またセットのなかに最大10台の固定カメラを仕掛けて、異なる部屋のシーンを同時に撮影するという独特の制作方法も採用している。(https://moviewalker.jp/news/article/1197868/)
〇音楽を担ったミカ・レヴィは「目で観る映画ではなく、むしろ耳で聴く映画」と本作を表現。「私たちは、映画のなかで繰り広げられている暴力を見ることはできないけれど、耳で拾うことができる。そうやって誘うように、音をデザインしました」と語る。(https://moviewalker.jp/news/article/1197868/)
〇ユダヤ人のルーツをもつグレイザー監督は、前作からの10年の歳月をすべて本作のために費やしたという。ルドルフ・ヘスの一家について2年間をかけて徹底的に調べ上げ、ホロコーストの被害者や生存者による何千、何万もの証言もすべて調査し本作を作り上げた。(https://moviewalker.jp/news/article/1192139/)
〇アカデミー賞の授賞式でグレイザー監督は、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃を非難し「人間性の喪失が最悪の事態を招くことをこの映画では伝えています」と力強くスピーチ。「本作はある意味では我々を描いた物語でもあります。我々が最も恐れているのは、自分たちが彼らになってしまうかもしれないということです。彼らも人間だったのですから」とも語っている。(https://moviewalker.jp/news/article/1192139/)
○グレイザー監督は次のように語る。「わたしが考えたのは、人間の原始的な性質である暴力性や、加害者のなかにある我々との共通性について語ることでした。彼らは異常者ではなく、段階的に大量殺人者となった普通の人々であり、自分たちが直接手を下すのではなくその犯罪行為からは大きく隔たっていたために、自身を犯罪者とは思っていなかった。そういった傾向は、わたしたち自身に共通するものでもあるわけです。それこそが本作を今日の観客に関連づける鍵でした。」(https://www.tjapan.jp/entertainment/17699543?page=5)

◆概要
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリ、第96回アカデミー賞国際長編映画賞受賞作品。アメリカ・イギリス・ポーランド合作。
【原作】
マーティン・エイミス「The Zone of Interest」(関心領域)
【監督】
「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」ジョナサン・グレイザー
【出演】
「白いリボン」クリスティアン・フリーデル
「落下の解剖学」サンドラ・ヒュラー
【公開】2024年5月24日
【上映時間】105分

◆ストーリー
ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。
タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。


◆以下ネタバレ


◆音
タイトルと共に不穏な音楽が流れ、その後しばらく音のみで続く冒頭(あれだけ音のみで続く冒頭は他の作品に見たことがない)。本作がこの“音”をキーにしている事がここに刻まれる。それが示す通り、ヘス家に住む人たちの日常に、塀越しに(有刺鉄線の傾斜が収容所側なのが実にリアル)常に届き続ける叫び声や銃声に想像が働き気が気でならない。またその音に“無関心”であり続ける彼らの姿そのものも恐怖。ただこの作品のミソなのは、百歩譲れば次第にその叫び声や銃声がなまじノイズ化していく事。つまり、見ているこちらにも“慣れ”が生じ始めていく。監督は「本作はある意味で我々を描いた物語」だと語っている。到底彼らを理解する事はできないが、“無関心”が生む人間の狂気に自分が映し出されるような、その意味でとてつもない恐怖を感じる映画だった。

◆関心領域
給仕にヘートヴィヒが“灰にしてやる”と吐くシーンから、その後男性の庭師?が灰を庭の緑にまくシーンが。“楽園のよう”と称えられた庭の緑が真っ赤に染まる印象的なシーンは、おそらくユダヤ人のものであった毛皮を着て鏡を覗くヘートヴィヒのように、それが血塗られたものであると訴えるよう。着飾るヘートヴィヒも彼女が作る緑も、強奪・虐殺のもとにあるものであり、ルドルフだけでなく彼女も十分鬼畜である、痛烈な揶揄の表現だった。一方で、収容所にリンゴを届けた少女は(実在の人物で、自転車や衣装は本物だという)おそらく同じ“関心領域”の範囲に住むものでありながら、ヘス家とは対照的な善の象徴。白黒で描かれ彼女やリンゴが白、つまり善や純粋さとして表現されているのも印象的で、白黒なのもやはりヘス家との対照表現。ただしそのリンゴすら、虐殺の加担になってしまう描写が何ともやるせなかった。

◆ラスト
“ハンガリー作戦”に向かうルドルフが嘔吐するラスト。あの嘔吐は重圧からくるものか、はたまた呪いか、いや…。監督は「彼らは異常者ではなく、段階的に大量殺人者となった普通の人々」と語っている。もはや鬼畜でしかないルドルフも、やはり人間であり、これから起こる地獄に体の奥底の善が反応した描写だと、自分には思えた。ルドルフが見る先に、現代の収容所(博物館)の映像が乗る。つまりこの先起こる地獄を彼は見据えていた、もしくは見えていたという描写。また同時に、見ている我々にルドルフが視線を向けているようで、まるで“君たちの世界では地獄は続いているか”と問いかけるよう。逆に嘔吐した事で最後の善を失ったルドルフが「ジョーカー」('19)のように階段を降りながら暗闇へ、つまり堕ちていく姿が何とも虚しく、そして恐怖。“無関心”である事の罪の重さを説く本作、現代でも起こっている地獄に対して我々がすべき事を、鑑賞後もズシリと心に残すすごい作品だった。

◆関連作品
○「シンドラーのリスト」('93)
グレイザー監督が、この作品がある事で本作が虐殺を音のみで表現することにしたという。プライムビデオ配信中。
〇Jamiroquai「Virtual Insanity」MV
監督が手掛けたMV。"得体の知れない狂気"に対して、描かれるスタイリッシュでかつ毒素のある映像が印象的。

◆評価(2024年5月24日時点)
Filmarks:★×3.9
Yahoo!検索:★×4.2
映画.com:★×3.9

引用元
https://eiga.com/movie/99292/
https://ja.wikipedia.org/wiki/関心領域_(映画)
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