てっぺい

オッペンハイマーのてっぺいのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
【テッペン映画】
伝記映画として歴代のテッペンを獲った超話題作。“原爆の父”の苦悩と葛藤は、日本人こそ強く感じるカタルシス。ノーラン監督ならではの神演出も堪能しつつ、名実共に今年度のテッペンを獲った“テッペンハイマー”をとくとご覧あれ。

◆トリビア
○ 本作の世界興行収入は、公開第3週末時点に9億1200万ドル(約1400億円)を記録し、伝記映画としては『ボヘミアン・ラプソディ』を抜いて歴代1位となった。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オッペンハイマー_(映画))
○ 役作りが「とてもチャレンジングだった」という、主人公を演じたキリアン・マーフィー。約13キロ減量してリサーチに没頭。オッペンハイマーの講義受講者からの癖の聞き取りや、衣装の果たした役割も大きかったそうで、「彼は自分を強く意識して、若い頃から自分自身を神話化していた。それで帽子やパイプ、スーツすべてが必要不可欠だった」(https://www.cinematoday.jp/news/N0141835)
○ ストローズを演じ、初のアカデミー賞助演男優賞を受賞したロバート・ダウニー・Jr.は「台本を読んだ瞬間、非常に鋭いビジョンがあると感じた。それを再現できたら名作になる」と確信したという。そのビジョンとは、オッペンハイマーの主観をカラーで、ストローズをモノクロで撮影したノーラン監督の映像表現への挑戦を指している。(https://moviewalker.jp/news/article/1190204/)
〇ストローズを演じたロバート・ダウニーJr.は、「(今作には)歴史的意義の重さがあり、それを適切に描くのはすごく重要なことだと感じた。僕たちは(劇中で描かれた)出来事が実際に起こったプリンストン高等研究所で撮影していた。だから、歴史の重みに敬意を表しようとした」と振り返る。(https://www.cinematoday.jp/news/N0141835)
○日本公開は、その内容から、配給会社や公開日の変更など紆余曲折があった。ノーラン監督は「本作は日本以外のすべての国で上映されました。こうして上映が決まったことは正しい判断だと感じます。」とコメントしている。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オッペンハイマー_(映画))
〇ノーラン監督は次のように語る。「映画を通して、観客にオッペンハイマーの考えや、彼が見ている視点を経験してもらえるように工夫しました。彼は科学者たちと原子力を利用する可能性を発見し、そして同時に敵国に先を越されないよう兵器を開発しなければならない、ジレンマを抱えていました。そのジレンマの中に観客も巻き込みたいと思ったのです。」(https://www.nhk.or.jp/minplus/0121/topic067.html)
〇ノーラン監督は前作の『テネット』で、核の脅威について考えさせられ、本作につながったと話す。「『テネット』では、科学者たちが、地球を破壊する可能性があるにも関わらず、ボタンを押したというシーンがあります。作品の製作後には、恐ろしい技術で世界を永遠に変えてしまった人物について探りたくなりました。」(https://www.nhk.or.jp/minplus/0121/topic067.html)
○ 広島県原爆被害者団体協議会理事長は、本作を核兵器廃絶に大きな追い風になると評価した一方、「原爆投下がもたらした被害が直接映し出されておらず残念だ」と述べた。同様の意見についてノーラン監督は「(本作品は)オッペンハイマーの視点から描かれたものであり、彼はラジオを通じて日本に原爆が落とされたことを初めて知った。決して主人公を美化するためではない」と反論している。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オッペンハイマー_(映画))
○本作と『バービー』がアメリカで同日公開され、タイトルを合成させた「バーベンハイマー」がインターネット・ミームとなり社会現象に。映画バービーがキノコ雲の合成写真を公式Xアカウントで言及したことにより、謝罪を行う事態となった。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/バーベンハイマー)
○ 本作のためだけに開発された65ミリカメラ用モノクロフィルムを用い、史上初となるIMAX®モノクロ・アナログ撮影を実現させた。(https://www.oppenheimermovie.jp/)
〇オッペンハイマー邸はロスアラモスに現存しており、その実際の建物が映画の撮影にも使用されている。この建物は一般公開されていないが、家の外を見学することができるという。(https://screenonline.jp/_ct/17691378/p3#content-paging-anchor-17691378)
○本作に触発された『ゴジラ-1.0』山崎監督がノーラン監督との対談で「日本が返答の映画を作らねばならない」と宣言すると、ノーラン監督は「アンサー映画を作るのであれば山崎監督以上にふさわしい監督は思い浮かびません。」と笑顔で応じた。(https://tower.jp/article/news/2024/03/15/tg011)
〇原作の原題は「アメリカン・プロメテウス」。人類に核の力をもたらしたオッペンハイマーを、天界の火を人類に与えたギリシャ神話の神・プロメテウスにたとえたタイトルで、最高神ゼウスの怒りを買ったプロメテウスは、その罪のため永遠の拷問に処された。(https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c030272/)
〇米エネルギー省は2022年、オッペンハイマーを公職から追放した54年の処分は「偏見に基づく不公正な手続きだった」として取り消したと発表。オッペンハイマーにスパイ容疑の罪を着せて責任逃れをしたことを公的に謝罪した。(https://screenonline.jp/_ct/17691378/p3#content-paging-anchor-17691378)

◆概要
第96回アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の計7部門受賞作品。
【原作】
カイ・バード&マーティン・J・シャーウィン「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」(2006年ピュリッツァー賞を受賞)
【監督】
「インターステラー」クリストファー・ノーラン
【出演】
「クワイエット・プレイス」キリアン・マーフィ
「メリー・ポピンズ リターンズ」エミリー・ブラント
「アイアンマン」ロバート・ダウニー・Jr.
「グッド・ウィル・ハンティング」マット・デイモン
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ケイシー・アフレック
「ボヘミアン・ラプソディー」ラミ・マレック
「ミッドサマー」フローレンス・ピュー
「オリエント急行殺人事件」ケネス・ブラナー
「レオン」ゲイリー・オールドマン
ジャック・クエイド(デニス・クエイドとメグ・ライアンの息子)
【撮影】
ホイテ・バン・ホイテマ(「インターステラー」以降のノーラン作品を手がけている)
【製作費】$100,000,000(約150億円)
【公開】2024年3月29日
【上映時間】180分

◆歴史背景
1930年代:オッペンハイマーが共産党と深い繋がりを持つ
1945年:アメリカが原爆実験成功
1947年:ストローズがオッペンハイマーをAEC顧問に任命
1949年:ロシアが原爆実験成功、アメリカは水爆開発へ
1954年:裁判①=オッペンハイマーがスパイ容疑で公職追放
1959年:裁判②=ストローズが商務長官に落選
1963年:オッペンハイマーが名誉回復
(https://note.com/james_miles_jp/n/n6307e8d355bb)

◆ストーリー
第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。


◆以下ネタバレ


◆苦悩
プロメテウスの神話が明示される冒頭。天界の火を人類に与えた事でゼウスの怒りを買い、永遠の拷問に処せられたプロメテウスのように、この世に核をもたらした男の、永遠の拷問にも思える苦悩が本作で描かれる事がここに記される。それが示す通り、本作の軸は一貫してオッペンハイマーの苦悩と葛藤。原爆に対する自責の念、スパイ容疑、なんなら不倫相手の自殺まで、彼が背負うものは膨らんでいく。彼のジレンマに引き込むために、監督は一人称で脚本したそうで、その苦悩一つ一つに、見ているこちらも感情移入して見入っていく。全体的に表情のアップも多く、サブリミナルで差し込まれる原子力のカットもその意味で効果的。一番印象的だったのは、原爆の成功をスピーチする場面。民衆の歓声が無音になり、女性の顔が焼けただれ、焼けこげた人形(のようなもの)を踏む。科学者としての正義を全うするも、その代償の巨大さを音と映像で破滅的に訴えており、オッペンハイマーの苦悩が痛いほど伝わってくる。彼の正義と栄光が苦悩に変わっていく本作の大きな転換点であり、1番の山場のシーンだった。

◆日本
本作には切っても切れない日本の要素。対ナチス、対ソビエトとして開発を始めた原爆は、始めは科学者の正義のように見えながら、日本に落とす事を言及し始めるあたりから、日本人の自分には見方が変わってくる。オッペンハイマーの原爆投下後の苦悩の描写にどこか覚えるカタルシスは、日本人なら誰もがなおさら強く感じるものだと思う。これがもし、史実として日本に投下されていなかったら、自分が日本人でなかったら、つまりある種の“他人事”であれば、おそらく感じ方が全く変わる。話題になった、バービーの頭にキノコ雲を合成した画像が記憶に新しい“バーベンハイマー”は、原爆をめぐる意識の乖離が露呈したまさにその例。本作を日本人として主観と客観で見るときに、その意識の乖離の根本を感じ取るような不思議な感覚だった。

◆ラスト
名誉を傷つけられただけの事で、アメリカ全体を巻き込んで大規模な復讐劇を繰り広げたストローズ(ストローズ目線のシーンはモノクロで差別化する、なんとも発想力の豊かな演出!)。そのきっかけとなったロバートとアインシュタインの会話は、ストローズの単なる被害妄想だと明かされるラスト(2人の会話越しに遠くから歩み寄るストローズが小さく、つまりいかにちっぽけだとする細かい映画表現も)。時間軸を操るノーラン作品で幾度も引用されたアインシュタインがついに登場し、その意味で本作はノーラン監督の集大成。そのアインシュタインが語る科学者の苦悩に、共感したロバートは“私は破壊したのです”と彼の苦悩をついに吐露する。挟み込まれる地球の画が、まさにその“破壊された”地球に住む我々が今後どう進むべきかを重々しく問いかけるよう。3時間の重量で紡ぎ続けた苦悩、その目を閉じるラストカットが、その後の世界への彼の祈りを表しているように思えた。

◆関連作品
○「TENET テネット」('20)
ノーラン監督の前作。本作製作のきっかけになった作品で、劇中にはオッペンハイマーに言及する場面も。プライムビデオ配信中。
〇「インターステラー」('14)
ノーラン監督の代表作。第87回アカデミー賞視覚効果賞受賞。高次元の映像美が素晴らしい。プライムビデオ配信中。
○「インセプション」('10)
ノーラン監督、キリアン・マーフィー出演作品。第83回アカデミー賞視覚効果賞含む4部門受賞。今見ても十分不思議な映像美。プライムビデオ配信中。

◆評価(2024年3月29日時点)
Filmarks:★×4.0
Yahoo!検索:★×3.4
映画.com:★×3.7

引用元
https://eiga.com/movie/99887/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オッペンハイマー_(映画)
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