てっぺい

青春18×2 君へと続く道のてっぺいのレビュー・感想・評価

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
3.5
【×2映画】
日台2つの国をまたぐ合作は、2つの時間軸がリンクする美しい脚本。話の大転換が1度ならず2度までも。2世代を見事に演じ分ける出演陣と、2世代を見事に撮り分ける製作陣。見応え2倍の満足作。

◆トリビア
○ジミーを演じたシュー・グァンハンは、アジアを代表するスター俳優。主演ドラマ「時をかける愛」は、世界累積再生回数が10億回を記録、韓国でも人気が沸騰し、わずか半年間で10社の広告モデルに起用されるなど、スターダムを駆け上った人物。(https://moviewalker.jp/news/article/1185060/)
〇監督曰く、ジミーが朝起きるシーンで何度もテイクを重ねてしまい、何がダメかも分からなくなりOKを出したことがあったという。その際グレッグは“本当に良いと思ってOKを出した?監督が本当に納得できるものを撮るまで何回でも付き合うから、僕に気を遣わないでほしい”と言ってくれて、本当に有り難かったという。(https://happinet-phantom.com/seishun18x2/)
〇18歳と36歳を同じ俳優に演じてもらうことにこだわったという藤井監督は、初めてグァンハンと面談した時に、それを確信したという。「静かさの中にパッションがある人だと感じ、自分が脚本を書いていた時のジミーと重なりました。完成したものを見て自分が一番感動したのを覚えています。」(https://www.oricon.co.jp/news/2320143/full/)
〇藤井組の常連であり、彼が「ミューズ」と呼んではばからない清原果耶。「彼女はものづくりをしている人たちを信じて、悩みぬいたことがちゃんと観客に届くことを諦めない」という監督は、その演出と彼女の意見が食い違ったとき、彼女の考えを採用したことが2回ほどあったという。(https://happinet-phantom.com/seishun18x2/)
〇清原は、完成した映画を初めて見た時に爆泣きしたという。「アミの撮影から1年経っているんですが、アミの気持ちが記憶として体内に残りすぎていて、映画を見ながら、ジミーはそんな顔していたんだ…と。客観的に見られなかったです。それくらい大事な役になったんだな」と語った。(https://www.oricon.co.jp/news/2320309/full/)
〇幸次は”距離感おばけ”だと語る道枝駿佑。「僕は幸次みたいに人にグイグイいけるタイプではないけど、できないからこそ想像しながら、元気に明るくはっちゃけて自由にやらせていただきました。」トンネルのシーンの『トンネルぅ』の言い方がこだわりで、何度も撮りなおしたという。(https://encount.press/archives/611422/)
〇トンネルを出て雪景色が広がるシーンは、実際に運行している電車で数十秒しかない限られた時間で撮影されたもの。監督は、「乗り換えで40分待ちなんてざらですし、雪が降ったら電車も止まる。そうした体験を出来たことで、ドキュメンタリースタイルで日本パートを撮影できました。」と語る。(https://eiga.com/news/20240501/8/)
○ 監督は本作のテーマについて次のように語る。「コロナ禍になり、『会いたい人に会いに行けない』というもどかしい想いを、世界中の多くの人々が同時に経験したからこそ、『人が旅をする』ということがこれまで以上に大きな意味を持つようになった。そんないまだからこそ、僕らはロードムービーを世界中の人たちに届けたい。」(https://moviewalker.jp/news/article/1193446/p3)
○撮影監督曰く、2人が向き合っていることを表現するため、全編において、36歳のジミーは左を向き、18歳のジミーは右を向いている。(https://screenonline.jp/_ct/17697173/p2#content-paging-anchor-17697173)
○ 劇中に登場する温かみある絵の数々は、藤井さんのお姉さん・よしだるみ氏によるもの。(https://otocoto.jp/column/seishun18x2_0502/2/)
○ エグゼクティブプロデューサーを務めたチャン・チェン(「DUNE/デューン 砂の惑星」にユエ医師役で出演)が原作にインスパイアされて映画化を企画し、監督に藤井道人を切望したことで今回のプロジェクトが始動した。(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/青春18×2_君へと続く道)
○藤井監督は、祖父が台湾人。自身も20代の頃に台湾に私費留学しており、そこで多くの映画人と知り合ったといい、台湾は自身のルーツの一つだと語る。(https://happinet-phantom.com/seishun18x2/#introArea)

◆概要
日台合作作品。
【原作】
ジミー・ライの紀行エッセイ「青春18×2 日本漫車流浪記」
【監督・脚本】
「余命10年」藤井道人
【出演】
シュー・グァンハン(台湾の人気俳優)、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳
【主題歌】Mr.Children「記憶の旅人」
【公開】2024年5月3日
【上映時間】123分

◆ストーリー
18年前の台湾。高校3年生のジミーはアルバイト先で4歳上の日本人バックパッカー、アミと出会い、天真爛漫でどこかミステリアスな彼女に恋心を抱く。アミもまた、ある秘密を抱えながらもジミーにひかれていく。しかし突然アミの帰国が決まり、意気消沈するジミーにアミはある約束を提案する。
現在。人生につまずいて久々に帰郷した36歳のジミーは、かつてアミから届いたハガキを再び手に取り、あの日の約束を果たすべく日本へ向けて旅立つ。東京から鎌倉・長野・新潟、そしてアミの故郷・福島へと向かう道中で、彼女と過ごした日々の記憶がジミーの心によみがえる。


◆以下ネタバレ


◆追体験
会議室でのジミーの背中の画から入る冒頭。振り返ると、この“全てを失った”事から彼の旅が始まるわけで、この背中がまさにファーストカットにふさわしく、かつ後述するラストカットとの対比にもなっていた。手紙の香り(“時の流れ”との名前がまさに本作にピッタリ)でアミとの出会いを思い出し、“一休みはより長い旅のため”で導かれた店の主人には、旅の価値観を教わる。アミと見た“Love letter”の世界が面前に広がり、旅人との一期一会を経験。そしてアミを思いながらランタンを飛ばす。その一つ一つが、アミとの出会いからの時系列とジミーの日本での体験のそれが並行しリンクする美しい構成。そしてそれは、まるでアミが旅で感じていた事をジミーが追体験するような、アミを感じていく旅としても表現されていたと思う。

◆対照
今村撮影監督が語っている通り、18歳のジミーはスクリーン左から右を向いており、36歳のジミーはその逆。さらに色味も18歳では暖色で36歳は寒色がかっていた。若いジミーのピュアな熱量と、冷静で悲しげなジミーの対照的な映画表現でもあり、病状のアミが右向きだったのも、過去の時系列を一括りにした表現でもあったと思う。また、アミのラブレターを受け取り、ひとしきりの号泣のあと(当然見ているこちらも)、彼女に返事を書くジミーが右向きになったのがミソ。自分を見失っていたジミーがアミの本当の思いを知り、自分を見つめ直し始めた前向きな彼の姿を、映像としても巧みに表現していたと思う。余談だが、18歳と36歳のジミーはビジュアルから本当に年齢差があり、それを作りきり、演じ分けたシュー・グァンハンという役者が本当に素晴らしかった。

◆青春18×2
ジミーがアミを回顧する旅が第1章、アミの病が明かされるのが第2章だとするなら、ジミーがアミへ返事を書くのが第3章。アミの死を知り、自分を見失っていたと語る彼にとって、おそらく19歳以降は空白の期間。それが、ついに“ラブレター”によってアミと心が通じた時、ジミーにとっての新しい“18歳”、つまりあの頃の前向きな自分に戻った人生が始まる。自分にはタイトルがそんな意味合いでつけられているように感じた。“いつまでも見守ってるよ”との手紙の通り、アミの魂に出会えたジミーが見つめたのはあの時アミと見た台南の景色。冒頭の、ジミーの背中を中心に周りの人間がぼやけて見える、つまり自分を見失っていた彼の姿と対照的に、彼の目の前にあの景色が大きく広がるラストは、彼の明るい未来が見えるよう。ジミーの喪失と再生の物語、それが映像としても見事に表現されていた。じんわりと心に響き、なんだか心も洗われる素敵な作品でした。

◆関連作品
○「余命10年」('22)
原作者が主人公と同じ病で亡くなっている、半分ノンフィクション涙腺崩壊作品。本作にはこの作品のスタッフが集結。プライムビデオ配信中。
○「新聞記者」('19)
藤井監督の代表作。第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品。この作品の台湾試写が本作製作のきっかけ。プライムビデオ配信中。

◆評価(2024年5月3日現在)
Filmarks:★×4.0
Yahoo!検索:★×4.4
映画.com:★×3.8

引用元
https://eiga.com/movie/100426/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/青春18×2_君へと続く道
てっぺい

てっぺい