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関心領域のtakaのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.9
アウシュビッツ収容所長だったルドルフ・ヘスとその家族の「幸せそう」な日常を淡々と描きながら、塀の向う側にある世界の断面が小出しに出されていくことで次第に見ている私たちの心もざわついていく。時おり聞こえる銃声や叫び声、煙突から立ち上がる煙。子どもがベッドで金歯をもて遊び、女中たちが毛皮のコートや服を品定めする。これらが塀の向う側にいるユダヤ人たちのものであることは一目瞭然であるが、誰も気に留めていない。かつてユダヤ人撲滅の先頭に立っていたアイヒマンを哲学者のアーレントは「悪の凡庸」と称した。知ることをやめ、ひたすらに命令に従う凡庸さが人類史に残る悪行を遂行してしまった。しかし、これは現代の私たちの姿でもあるかもしれない。塀の向こう側で起こっていることを「知る」努力をせずにあきらめて、刹那に生きている私たちに問いかけている。あなたも結局、ルドルフ・ヘスやアインヒマンになってはいないかと。
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