耶馬英彦

ゆとりですがなにか インターナショナルの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

4.0
 面白かった。悪人が登場しないホンワカした作品である。それに笑える。映画を観て笑うのはいい休日の過ごし方だろう。

 アメリカ映画の「ハングオーバー!」は、タイトルの通り二日酔いの男たちがブラックアウトで前夜の出来事をすべて忘れてしまったところからはじまる。とことんまで羽目を外した自分たちの行動に、最初は呆れ、次に絶望し、最後は笑ってしまうという、なんとも無責任なコメディである。あまりの馬鹿馬鹿しさと荒唐無稽の展開に、ハマる人が多くて、当方の周りでも続編を期待する声が多かった。続編は公開されたが、やはり第一作目が一番ケッサクだった。

 本作品は造り酒屋が舞台だけあって、酒を飲むシーンが何度も登場する。マッコリも登場するが、市販のマッコリの殆どは、人工甘味料のアスパルテームが使われているから、当方は飲まないことにしている。アスパルテームは、製パンに使われる臭素酸カリウムと同じく発ガン性が疑われている。製造会社や御用学者は安全だと主張しているが、人体について医学で分かっていることは1パーセントもないことは、医学界では常識だ。アスパルテームも臭素酸カリウムも、摂取した際の、発癌性以外の人体への悪影響については、まだ何も明らかになっていないと言っていい。
 その点、本作品の服部杜氏は、酒作りは自然のものだけを使うという信念の持ち主で、とても好感が持てる。マッコリも本場の高級品にはアスパルテームなど添加されていない。日本酒も本醸造には醸造用アルコールが添加される。だから当方は純米酒しか飲まない。酒米を作るのに化学肥料が使われているではないかという批判もあるが、植物の自浄作用を信じたいと思っている。少なくとも政治家や役人の自浄作用よりは何億倍も期待できるはずだ。

 ゆとり教育と言っても、あまりピンとこない人が多い気がする。タイトルは、ゆとり教育を受けて育った人間は学力が低くてやる気もないというイメージに反発するというものだが、そもそも世間ではそういうイメージが薄れているし、ゆとり世代という概念そのものが希薄になっている。
 作品中で韓国人役の木南晴夏が韓国語で「だからゆとりは」という台詞を言うときだけ、ゆとり世代を思い出させる。それ以外はほとんどゆとり教育と無関係だ。
 宮藤官九郎の脚本は天才的で、SNSやリモート、小型で高性能なWEBカメラなど、日常生活の中にインターネットが入り込んでしまったことや、LGBTやハラスメントに過度に反応する現代社会を面白おかしく物語にしている。敢えてゆとり世代の要素を入れる必要はなかった。欧米の映画だったら「SAKAMA FAMILY」というタイトルにしていると思う。それで十分だ。

 岡田将生は「1秒先の彼」でも宮藤官九郎脚本の役柄の演技が軽妙だった。今回も平凡で弱気な主人公坂間正和を見事に演じている。表情も台詞回しもいい。松坂桃李のエキセントリックな教師や、柳楽優弥のネットスキルと中国語に長けた失業者も愉快だ。吉田鋼太郎の謎のおっさんは、役の配置からして年配の登場人物が必要だったのだろう。何も否定しないところがいい。作品を効果的にゆるくしている。妻役の安藤サクラは、6月に鑑賞した「怪物」、9月に鑑賞した「BAD LANDS」に続いて3つ目の出演作である。どんな役を演じても等身大の存在感がある。引っ張りだこになる訳だ。
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