しの

北極百貨店のコンシェルジュさんのしののレビュー・感想・評価

3.4
百貨店という場所のワンダー性を、とにかく動き回る主人公のアニメーションにのせて体感させるというだけで結構面白い。場所や接する動物の大きさ、目線によって様々な表情を見せる百貨店のビジュアルだけでも満足感がある。やがて、そのある種のユートピア感をメタ的に眺める皮肉でシビアなテーマが示され、互助社会への願いと祈りが提示される。儚くも温かい後味だった。

コンシェルジュの範疇を超えてる場面が多いので、単なるお仕事ものとして見ると厳密さはないのだが、クライマックスで「この百貨店が何の象徴か」が明かされると、ある程度は納得がいく。ここで語られることは、要は破滅を呼ぶ大量消費社会の流れに抗うことができるマインドとは何なのか、ということで、それは例えば「目の前に困ってる人が居たら手を差し伸べる」ことだったりする。自分も、今後の社会は互助精神の復権が最優先課題だと思うので、大いに共感した。

正直、「『償い』としてやることがそれって、どこまでも人間目線の話だな」とは思わなくもないが、今やこの百貨店という場所自体が斜陽で、人々から(劇中の言葉でいう)「コンシェルジュ精神」は失われゆく一方だということを踏まえれば、なかなか皮肉な舞台設定だと思う。終盤の展開はお仕事ものとしては破綻している気がするが、もはや百貨店というより「滅びゆく世界の論理に唯一抗い得る関係性が発露する場所」というシンボリックな目線で見れば、本作がアニメーションという虚構であることとあわせグッとくるものがある。

その意味では、百貨店という場所の儚さを終盤でもっと前面に出してくれれば、皮肉な全体構造がハッキリしてより琴線に触れたと思う。ただ、あえて(表面上は)新人コンシェルジュのハートフルな成長譚という軸で通したのは良かった。小品であることの愛しさに意味がある作品だった。
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