たく

ペナルティループのたくのレビュー・感想・評価

ペナルティループ(2024年製作の映画)
3.7
使い古されたタイムループにまだこんな活かし方があったんだという新鮮さに心打たれた一方で、辻褄が合わないところが散見してモヤモヤした。「ハッピー・デス・デイ」を裏返しにしたような設定と、被害者遺族と加害者が関わっていくプロットにはかなり引き込まれた。お目当ての若葉竜也の演技を堪能できたのと、久々に見る伊勢谷友介との奇妙なバディ展開にほっこり。作品に寄り添いたい気持ちのまま観続けて、鑑賞直後は設定の雑さが気になったけど、これは意外と計算ずくなのかも?と思えてくる。

朝のまどろみの中でパリッとスーツを決めた恋人を見送った岩森が、謎の死を遂げた彼女を殺したらしい男を毒薬で弱らせてから殺害するという、ぶっ飛んだ導入にあっけに取られる。日付が変わった瞬間に一日がリセットされるという王道展開から、岩森が白昼堂々と男をハメて殺害するくだりが繰り返されて、24時間で無かったことになることが分かってるからこその開き直りの行動なのかなと思ったところからの種明かしに納得。

途中で殺される犯人側の視点に切り替わり、犯人も同じループを繰り返してることに気付いてるのが面白いんだけど、ここからなぜか彼と岩森が急速に心の距離感を縮めてくる展開が不自然過ぎてモヤモヤした。岩森があまりに殺しを繰り返したために、行為の無益さから相手を許すに至ったという心情は分からなくもない。でも岩森は恋人が抱えてるらしい困難な事情の真相を全く知らなかったわけで、心の距離を縮められない関係のまま迎えた彼女の死に対し、なぜあんなに犯人に対する復讐心に囚われたのか不可解過ぎた。

全てが作られた架空の世界のはずなのに、犯人が本人しか知らないはずの心情を語るのがどういう世界線なのか戸惑う。もしかしたら彼は岩森が勝手に作り出した犯人像で、自分の気持ちを鎮めるためのスケープゴートだったのかも。つまり犯人と思ってた人物はそもそも実在してないということか。そう考えると今までのモヤモヤもすっきりする。ラストは今までのVRの世界では全てがコントロールされてて偶然が起こり得なかったのを、偶然の事故が起こったことでやっと現実に戻ったことを示してて秀逸な演出だった。この幕切れはちょっと「ノーカントリー」を思わせた。
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