緑雨

乱れるの緑雨のレビュー・感想・評価

乱れる(1964年製作の映画)
4.5
人の世に対する冷徹な眼差しに痺れる。精緻な人間描写に唸らされる。

人の営みを描いてあまりに厳しいリアルさに戦慄すら覚える。登場人物の言動に不自然さを感じるものが無い。もちろんフィクションなんだから、ここに描出される世界は「作り物」であり、冷静に考えれば「こういう状況でこういう反応をするものだろうか」と後から疑問が生じる点もあるんだけど、少なくとも映画を観てるあいだそのことを意識させられることは一切ない。いつもながら成瀬の演出は完璧。

例えば、草笛光子演じる義妹はストーリーの中においては悪役的立ち回りを務めるわけだけれど、そこに作為的なものを感じることはない。彼女にはそうせざるをえない彼女なりの事情が存在することが、ダイアログなり表情なり仕草なりから無理なく伝わってくるから。

ちょっとした部屋の暗がりと明るみを利用した演出なんか、技術的には基本なのかもしれないが、ここまで効果的に用いる作家が他に存在するだろうか。
緑雨

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