緑雨

お早ようの緑雨のレビュー・感想・評価

お早よう(1959年製作の映画)
4.0
放屁で始まり、風にはためくパンツで終わるという、何ともしょうもない話だが、楽しくって多幸感溢れる。

当時、実際にあんな長屋に毛が生えたような新興住宅が作られていたのかは寡聞にして知らないが、路地の向こうに家の間から土手の斜面が見え、その上を人が行き交う構図、つつ抜けダダ漏れの隣家同士を文字通り縦横無尽に行き来する空間は、小津が創成する直角的映画世界とは抜群の相性。

それにしても、時代の潮目を感じ取る眼力にはここでも敬服してしまう。
和服が普段着の主婦たちは、鍵など掛かっているはずのない隣家の戸を無造作に開けて声をかけ、躊躇いなくものを貸し借りする。静かな茶の間では、家族がちゃぶ台を囲んで思い思いに読書などして夜を過ごしている。
やがて間も無くテレビが茶の間に入り込み、その他家電が普及して生活は効率化するとともに個別化していき、「煩い隣近所」に悩まされることも減っていく代わりに、「お早よう」やら天気の話やら「余計な」会話もしなくなって、世の中の潤滑油が減じていくのだ。「一億総白痴化、困ったもんですなあ」だけではないのだよ。

イサムちゃん、いいキャラしてるよなぁ。「アイ・ラブ・ユー」
緑雨

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