緑雨

アイアンクローの緑雨のレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
4.0
デビッド・フォン・エリックが来日中にホテルで急死したのは1984年2月、追悼試合でケリーがリック・フレアーからNWAのチャンピオンベルトを奪ったのが5月。
当時小学校5〜6年生だった自分が最もプロレスにハマっていた頃の出来事であり、記憶が蘇ってきて懐かしくて堪らなくなった。

ケリーはとにかくスター性があってかっこよかったなあ。円盤投げスタイルの回転パンチには痺れたものだ。ハーリー・レイス、リック・フレアーという当時のプロレス界を代表する如何わしきダーティ・チャンプのキャラクタも絶妙に再現されていて泣けてくる。

自分はその後プロレスへの関心が次第に薄くなっていって、マイク、(映画には登場しない)クリス、そしてケリーのショッキングな最期はニュース記事でしか知らなかったのだけれど、「呪われた一族」の悲劇はずっと頭の片隅に残っていた。

ということで、往時の雰囲気の再現も含めてなかなか楽しめたのだけれど、往年のプロレスファン以外の人が観て面白いのかどうかは全く想像がつかない。

兄弟の中でやや華に欠けていたケビンが唯一存命というのも運命を感じてしまうが、そのナイーブな雰囲気をザック・エフロンが見事な肉体作りとともによく演じていた。チャボ・ゲレロ・Jr.の名前もコーディネーターとしてクレジットされていたが、総じてアクションはプロレスの動きになっていたと思う。

タイトルにもなっているアイアンクローはやや出し惜しみ気味だったが、フレアーのブロンドが血で染まるあたりは如何にもな演出で高揚する。

父フリッツの厳格な教育は想像していたほどの表現はなかったが、序盤の「兄弟で話し合って解決しなさい」という母のセリフが伏線となって、終盤に父の言葉として重要な場面で再登場するあたりはなかなか巧い。

あまり認識が無かったのだがフリッツ・フォン・エリックはダラスを拠点としたプロレス団体WCCWのプロモーターだった。映画は、ローカル小団体を家族経営することの苦闘にも焦点を当てる。実はその苦労苦心こそが「呪われた一族」の正体だったのではないか、という気もしてくる。
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