餅モッチー

駒田蒸留所へようこその餅モッチーのネタバレレビュー・内容・結末

駒田蒸留所へようこそ(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

これは家族の、仕事の、成長の物語。

Filmarksの試写会に当たりまして
ひと足お先に観させていただきました。

まず凄く面白かったです。

シナリオ、映像、音楽、芝居
全てがうまく混ざり合っていて
アニメ映画のお手本のような作品でした。


正直観る前はですね。
え!P.A.WORKSがアニメ映画?
しかも上映時間91分!
そんな短くて大丈夫?って思ってたんですよ。

P.A.WORKSさんといえば
『花咲くいろは』や『SHIROBAKO』など
「働く」をテーマにした作品を数多く手がける有名なアニメーション制作会社です。

しかし、普段のアニメは
2クールで24話以上かけてつくるわけで

それが91分の1話ですよ。
そりゃ大手の信頼はありますから
大コケは無いと思ってはいますが
ほんの少しだけ心配もしてました。


でも、いざ観たら
あっという間であり、しっかりと密度も感じる
不思議な91分でした。



私は本作を観て
これは仕事の話というより
人間の、家族のドラマだなって感じました。

というのも究極的にはウイスキーの蒸留所の話
じゃなくても本作は成立するよな
って思ったからです。

もちろん、全ての話は人間ドラマなので
なにを当たり前の事をって言われれば
それまでなんですけど

アニメの方では、テーマになる仕事があって
そこで働く人間のドラマが描かれてると思うんですけど

本作は仕事よりも人間や家族ドラマに
重きが置かれてるように感じました。

もちろん、ウイスキーの蒸留所だからこその
お話だとは思いますし
P.A.WORKSさんの強みである
「働く」というテーマは感じましたが
本作はその比重がアニメよりは少なく、
家族愛や成長によってたかなという感じです。


きっと長い時間をかけることのできるアニメで作るなら主人公の人生や成長を通して、
その仕事の楽しさや苦しさ、やりがいなどを
深く描くのだと思ったり



話はですね。


ウェブニュースサイトの若手編集者高橋光太郎が上司の安元にある日
明日から駒田琉生(るい)に同行してウイスキーの記事書いてって言われるところから始まります。


私の中では琉生と高橋のW主人公だと
解釈したのですが
皆さんはどうなんですかね。


序盤の高橋はですね
もう本当に典型的な駄目なやつでして
序盤はメチャクチャ腹が立ちます。

まあ、25歳って言ってましたし
かなり等身大の若者って感じもしますね。

特にやりたい事や情熱をかけることも
見つける事ができず
なんとなく入った会社で
よく分からない仕事を急に任せられ
文句を言いつつ渋々やるって感じですよ。

でも、記者として
取材先の相手の名前を間違えて調べてたり
取材対象をロクに調べてなかったり
ってのはどうなのかと思いますけどね。

序盤はこの高橋を通して
作品の世界を知っていきます。


そしてそんな高橋と琉生が喧嘩するシーンが
あるんですけど

このシーンが個人的には
少しだけ無理矢理話をすすめてる感がありまして

高橋がクソなのはまだ分かるとして
琉生もついカッっとなるんですよね。

まあ、そこまでの高橋へのフラストレーションがあったってのは分かるんですけど

2人ともそこそこ人数いる前で
あんな態度や行動ってとれるのかな
ってのが少しだけひっかかりまして

まあ、話を進めるためには
なにか展開が必要なのですが
私は少しだけ違和感を感じました。


さてそんなバトルの後
高橋の言動になにかを感じたのか
駒田蒸留所の古株である東海林(しょうじ)が蒸留所のこれまでの話や琉生の苦悩を話します。

そして高橋は覚醒
琉生のために、駒田蒸留所ために
なにかできないかと頑張り始めます。

このへんからの高橋の成長は凄いですよね。
自分の書いた記事が読まれるようになった喜び
琉生の事や駒田蒸留所の事、KOMAの事を知った事で
少しだけ興味を持てるようになったことで
それまで雑だった取材も
しっかり事前知識を入れてきたり
自分から質問をしたり

急にできるやつになりました。

そして琉生は
駒田蒸留所の顔ともいえる
KOMA(ウイスキーのブランド名)の
復活に取り組みます。


高橋の進化を皮切りに
トントン拍子で全てがうまくいく
...なんてことも無く。


なんとウイスキーの貯蔵庫が火事で燃えてしまいます。


メタ的な話ですが映画観てて
このまま終わらないよな
もうひと山くるよななんて思ってた矢先ですよ

急に画面が貯蔵庫にうつって
電源のドアップ
あ、これ火事やってみんな思ったと思います。

私はですね呑気に
その前のシーン貯蔵庫のシャッターが降りるところがうつるんですけど

この映像がすごくて
へぇ~今ってこんな滑らかなシャッターを描けるんだなんて思ってたら
電源のドアップ
あの絶望感。


貯蔵庫には高橋が見つけ出した
つくるのをやめる前の貴重なKOMAの原酒や
今の駒田蒸留所の売上を支えている
若葉のもとになる原酒など
たくさんあったわけで

火事によりKOMAの復活どころか
駒田蒸留所存続の危機ですよ。


琉生は従業員を守るために
兼てより話に上がっていた
大手による駒田蒸留所の買収案を受け入れよう
しますが、
従業員が苦しくても駒田蒸留所としてKOMAの復活をさせたいと
琉生の背中を押します。


ここからはハッピーエンドまでの
ウイニングランです。


高橋はKOMA復活のために
これまでの駒田蒸留所の事、琉生のKOMA復活への気持ち、未だに復活までは遠い現状などを
記事として書きました。

すると全国から様々なお酒の原酒や
昔のKOMAファンから未開封のKOMAが送られてきました。


そして、琉生の方は
災害を気にウイスキーを作らなくなった駒田蒸留所を見限り、家を出ていった元後継者の兄と和解をして
2人でKOMA復活を目指します。

試行錯誤と先代(父)の残したノートのおかげで、ついにKOMAの再現に成功した琉生達

これはKOMAの言わば素のようなもの
これを樽で熟成させたりと
更に年月がかかるそうで

高橋はこれからもKOMAの完成まで
記事を書き続けると琉生に約束します。


そして数年後

これエモいんですけど
朋子(琉生の幼馴染みで駒田蒸留所の広報)の小言から始まります。

この小言は
物語序盤の高橋が始めて琉生達と取材に行って
高橋がやらかしまくった帰りの車の出来事と
被るんですよ。


ただ今回小言を受けてるのは
高橋ではなく、新人記者
なだめる琉生と
新人記者の変わりに謝るのは
なんと高橋

フォーマルな装いで大人びた高橋!

小言言われた新人記者の不貞腐れ具合は
まさに初期の高橋(笑)
少しのやり取りでしたが
あの高橋が立派になったなって思いました。

そして車は駒田蒸留所へ

最後は琉生のこのセリフ
「駒田蒸留所へようこそ!」


最高!



さてさて、ここまで
沢山ほめてきましたが
気になるところも実はありまして

それはキャラの顔です。

作画崩壊とかではないと思うんですけど
なんか顔が安定しないんですよ。

P.A.WORKSなりに
リアルさを追求した結果なんですかね。

なんかシーンや顔の向きによっては
顔にすごく違和感を感じるところが
沢山あるのです。
顔の余白が多いって言うんですかね。
見え方によっては顎が2重顎みたいな
なんか顔の輪郭がデカかったり

こういうデザインと言われれば
それまでなのですが

他の作品では、こういう感覚にならなかったので、そこが個人的にはちょっと残念でした。


でも、そんな事はどうでも良くなるレベルで
他が良すぎるんですよ。

シナリオは、もう散々語りましたが、
私の文章構成力の低さゆえに
端折ったキャラが沢山いましてね。


まず、幼馴染みの朋子
色々とストレートに言ってきますが
明るいムードメーカーで
作品が暗くなりすぎないのは朋子のおかげです。


高橋の上司の安元も良いキャラなんですよ。
高橋を導くっていうか
雑そうで意外とちゃんと高橋をみてますし
最高の上司だと思います。

やりたい事を仕事には出来なかったけれど
やれる事をがむしゃらにやった結果
今がある。
安元の考え方が素敵でした。


東海林さんは背中で語る職人というか
ほんと私も最初怖かったんですけど
親しくなると優しい爺ちゃんですよ。


高橋の友達の斎藤
これは斎藤が良いキャラというより
斎藤に会うと言う事で
その時の高橋の状態を表してるんですよね

1回目は序盤の高橋で
仕事や自分の今の状況への愚痴で
斎藤に対して羨ましいって思ってる頃

2回目は覚醒した高橋で
自分がどういう仕事をしてるのかとか
ウイスキーについて熱く語ってます。
生き生きとした様子が伝わってきますし
それを斎藤が楽しそうに聞いてるんですよ。


駒田ファミリーは
最初兄ちゃん圭は嫌なやつだなって
感じだったんですけど
物語がすすむに連れて
駒田蒸留所がKOMAが本当に好きで
守りたかったんだなって分かってきます。

KOMAできたので駒田蒸留所に帰ってくるのかなっておもってたんですけど
数年後を描いたエンドロールで
圭は桜盛酒造にまだ勤めてる姿が描かれてるいて、こういう義理堅さが良いなって思いました。

あと、どうありたいかさえ分かってれば
やり方はどうでもいい

的な名言は凄く響きました。


ちなみに私が泣いたシーンは
KOMAが完成して、2人が母にKOMAを飲んでもらうシーンです。
(母はお酒が得意ではないが、KOMAだけは飲める。)

父がノートに
毎年母の飲んだ時の表情をみて
その年の出来を判断していた
と書いていて

その事を母に話すんですよ。

父はいませんが
父が残したノートがあって
琉生がいて、圭がいて、母がいて
そしてKOMAがある。

KOMAは家族のお酒なんです。
この瞬間にバラバラだって家族が
また1つになったなって思いました。



次は作画の話
先ほど顔の話をしましたが
背景や構造物などに色々な挑戦を感じました。

背景はところどころ
特に風景で絵画のような塗り方をしてるように感じました。
凄く目を引くんですよね。

構造物では
最後KOMAの完成パーティの
会場へ向かう道が
急に1人称視点の3Dみたいになって
なんでだろうって思いました。



音楽の話をしますと
1番驚いたのはエンドロールで流れる
主題歌「Dear My future」です。
琉生役の早見さんが歌ってるのですが

早見さん歌うますぎ!

思わず聴き入ってしまいました。


あとこれはもう個人の感覚なんですけど
作中でよく流れるBGMがあって
それのサックスの音が凄く印象的で

ウイスキーの琥珀色とサックスって
凄く合うなって個人的に思いまして

なんででしょうかね
サックスってジャズのイメージで
ジャズは薄暗いバーで流れてるイメージで
バーってライトが暖色だったり
バーってウイスキーのイメージだったりで

なんかそういう
論理的ではないけど
なんか繋がるイメージのおかげで

この作品に、このBGMは
ピッタリだなって終始思ってました。

皆さんはどうお思いですかね?



最後はお芝居なんですけど

まあ、メンツをみていただければ分かるとおり
うまい人しかいません。

どの方も有名で、
ふとすると役よりもその人の顔の方が
浮かんでくる可能性もあるなか
流石ですよ。

皆さんちゃんと役を生きてらっしゃるので
するっとキャラが、物語が
頭に入ってきました。

うますぎるので
1人1人ピックアップはしません。
ぜひ皆さんも劇場で体感してください。



さてさて、ここまで長々と
お付き合いいただきまして
ありがとうございます。


もう本当に話したいことが沢山ありまして、
うまく纏める事ができませんでした。


ただですね。
本当に伝えたいことは1つだけです。


とりあえず観てください。


それだけです。


私はお酒をほとんど嗜みませんが
そんな私でもウイスキーを知りたいなと
思える素敵な作品でした。



これは余談ですが
初期の高橋の上の服が
ずっと進撃の巨人の調査兵団の服に見えてました。
餅モッチー

餅モッチー