Yutaka

瞳をとじてのYutakaのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
5.0
数少ない作品の中で奇跡を起こしてきたビクトル・エリセが今度も奇跡を起こした。映画そのものが奇跡を起こす事はあっても、今作のように映画で奇跡を起こす事を恣意的に求めて実際に奇跡が起きる事例は見た事がない。それは彼自身のキャリアだけでなく映画史も包括した奇跡。映画というアートフォームの黄昏時にキャリアの集大成をぶつける巨匠の意地だ。
それにしても長尺にも関わらずずっと面白い事に驚いた。消えた俳優を探すだけなのだが、ずっと面白い。これまでの作品でも"探す"事に重きを置いてきたビクトル・エリセだからこそ辿り着けた境地。
ビクトル・エリセの作品において視線は一番に強調されてきて、それは見るものと見られるものの関係をそれだけで表す方法論でもあった。『ミツバチのささやき』でアナ・トレントは瞳をとじて幽霊を呼び起こす。まさか、タイトルだけではなくここまでのセルフオマージュになっているとは。これまでの視線という監督のシグネチャーが反転し、過去作も包括する奇跡的なラストに震えた。
今作の対話がとにかく良くて、特にアナ・トレントとカフェで対話するシーンはグッときた。細かい皺が分かるほど画面いっぱいにアナ・トレントの顔をクローズアップするショットは時間という現実とそれを超越する彼女の美しさが同居していてこれも巧いなと思った。
1番好きだったのは海辺の小集落のような所で過ごすシーン。いつまでも見ていたいくらい愛おしかった。
劇伴で奏でられるピアノやストリングスの旋律も素晴らしくてとにかく好きな映画になった。
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