こなつ

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のこなつのレビュー・感想・評価

3.8
予告編だけで泣きそうだったのに、「泣けなかった」というレビューもあって、ちょっとファンタジー要素強いのかなと思っていたのだが、期待通りしっかり泣けた作品。

2018年のTBSドラマ「中学聖日記」でデビューした19歳の岡田健史の時代から水上恒司君のファンだった。当時は有森架純初単独主演作品が目当てで観たドラマだったが、彼の新人とは思えぬ堂々とした演技に驚いた。プロダクションと揉めて芸名を本名に変えたけど、やはり彼ほどの演技力と真面目さがあればヒット作品に恵まれる。

7年前ケータイ小説としてSNSを中心に話題を集めた汐見夏樹の同名ベストセラーの映画化。戦時中の日本にタイムスリップした現代の女子高生・百合(福原遥)と特攻隊員の青年・彰(水上恒司)の切ない恋の行方を描いたラブストーリー。

昭和20年6月といえば一番激しい戦況だった筈だが、そういう緊迫感よりも、国への忠誠心を抱えながら恐怖の中で揺れ動く特攻隊員やそれを見ている周りの人々の気持ちを丁寧に描いている。終盤、現代に戻った百合が彰の手紙を見つけるのだが、今のこの平和な日本には想像もつかない時代、若い命が犠牲になった辛い過去があったのだと観ている私もあらためて強く感じた。実際に、鹿児島南九州市にある知覧特攻平和会館には、旧陸軍の特攻隊で戦死した1036人の遺影、遺書、遺品が展示されているという。

一面百合の花が咲き誇った丘があまりに美しく、現実的でない戦争の理不尽さを物語っているようだった。

軍の指定食堂の女将・ツル、こんな優しい人に見送られて旅立って行ったのかと、あらためて松坂慶子の温かな演技と、ラストで流れる福山雅治の主題歌「想望」が深く心に沁みた。
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