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あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。のMrOwlのレビュー・感想・評価

3.9
親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合(福原遥さん演)。ある日、進路をめぐって母親の幸恵(中嶋朋子さん演)と喧嘩をして家出をし、雨を避けるために山の洞窟のようなところに入り込みます。
帰るに帰れず、百合はそこで眠りに着きます。朝目覚めると、どこか様子がおかしい。どうやらそこは防空壕のようで、出てみると景色も違っていました。百合はなぜか1945年の6月...戦時中の日本に居るようです。
偶然通りかかった彰(水上恒司さん演)に助けられ、百合は軍の指定食堂に連れていってもらいます。そこで女将のツル(松坂慶子さん演)や勤労学生の千代(出口夏希さん演)、彰と同じ隊の石丸(伊藤健太郎さん演)、板倉(嶋﨑斗亜さん演)、寺岡(上川周作さん演)、加藤(小野塚勇人さん演) たちと出会います。ツルさんの食堂を手伝うことになった百合は日々を過ごす中で、彰と惹かれ合っていきます。ただ、彰のいる隊は特攻隊で、出撃命令を待って日々を過ごしていることを知り・・・。
SNSを中心に話題を集めた汐見夏衛の同名ベストセラー小説の映画化作品です。映画化にあたり、百合の年齢設定、登場人物などは脚色が加えられているので、原作とは設定が少し異なるようです。原作を読んでいる方はその点を踏まえて観賞されると良いかも知れませんね。自分は原作は読んでおらず、劇場の予告編で知りました。青春ラブストーリーは苦手ですが、扱っている題材が特攻隊ということもあり、タイムスリップものでもあるため、観賞してきました。
戦争ものはどうしても泣けてしまいますね。国を守る、愛する人を守る、子供の未来を守る、その為に命を懸けて戦った人々の覚悟と想いは、簡単に否定できるものではありません。だからと言って過度に賛美することも、美化することも危険ではありますが、その点ではバランスのよい物語になっていると感じました。未来から来た百合は、日本が敗戦すること、戦後はGHQ占領下で、多くの日本人は非人道的な扱いを受けず、敗戦の焼け跡から復興し、平和な国になっていくことを知っていますので、好きになった彰を含めた特攻隊には出撃して欲しくないと思っています。一方、特攻隊の隊員達は、未来を知る由もないので、敗戦し、占領されれば、皆ひどい目に遭うと危惧しています。志願した部隊ではありますが、それぞれの思いを胸に、覚悟を決めた者、迷いがある者、未練がある者など様々です。百合の視点と隊員各々の視点が描かれているので、過度に賛美することもなく、全否定することもなく、その時代に生きた人々の想いが描かれており、良いと思いました。
切ないラブストーリーとしても胸に迫るものがありますので、異世界ラブストーリーものとしても楽しめるかと思いますし、女性はその視点で感動できる作品かなと思います。

以下は、特攻隊(特別攻撃隊)に関する補足です。
特別攻撃隊は多様な形態があり、定義も様々です。
語源は太平洋戦争の緒戦に日本海軍によって編成された特殊潜航艇「甲標的」の部隊に命名された「特別攻撃隊」の造語から。これは一応の生還方法を講じた決死的作戦であったので、必ずしも自爆することを意味した訳ではありません。
また、組織的な戦死前提の特別攻撃を任務とした部隊を意味するもので、大西滝治郎中将(第一航空艦隊司令長官)の命令によって1944年10月20日に編成された神風特別攻撃隊が最初と見なすという説もあります。
特攻は「体当たり攻撃」とも呼称されます。航空機による特攻を「航空特攻」、回天(太平洋戦争で大日本帝国海軍が開発した人間魚雷で、日本軍初の特攻兵器)や震洋(太平洋戦争で日本海軍が開発・使用した特攻兵器(小型特攻ボート))のような特攻兵器による特攻を「水中特攻」「水上特攻」と呼ぶ。沖縄の敵中に突入作戦を行った水上部隊は「海上特攻隊」と命名されています。敵軍基地に強行着陸して爆撃機の破壊や搭乗員の殺傷を行う空挺隊は空挺特攻隊と呼ばれました。爆装体当り攻撃でなくとも、必死の攻撃と認められれば、未帰還後に特攻隊として認定されたケースもありました。日本海軍が定めた神風特別攻撃隊の場合は、戦死前提の爆装体当たり攻撃隊の他に掩護、戦果確認の部隊も含めた攻撃隊を意味しています。終戦が近い1944年、1945年に行われた特攻作戦は、残念ながら無理な作戦も多かったようですが、戦果を上げた作戦もあり、対戦国であった米国などには警戒されていた作戦だったことは知っておいても良いかも知れません。
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