ぶみ

ほつれるのぶみのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.0
見ないようにしてた、全部。

加藤拓也監督、脚本、門脇麦主演によるドラマ。
夫婦関係が冷め切っている主人公等の姿を描く。
主人公となる綿子を門脇、その夫・文則を田村健太郎、綿子の不倫相手・木村を染谷将太が演じているほか、黒木華、古舘寛治等が登場。
物語は、綿子と木村が一泊旅行に行った後、それぞれが帰路についた直後、綿子の目前で木村が事故に遭い、帰らぬ人となるという衝撃的な導入でスタート、以降、綿子と文則の夫婦関係が中心に描かれるのだが、監督の前作『わたし達はおとな』がそうであったように、二人も含め、登場人物全ての会話に喋らされているような台詞や演出が全くなく、特に綿子と文則の自宅の様子については、あたかも隠しカメラをつけて隣人宅を覗き見ているかのよう。
中でも、微妙な関係を続けていた綿子を演じた門脇はもとより、本作品の優勝は、文則を演じたオリエンタルラジオの藤森と小澤征悦を足して二で割ったようなビジュアルの田村で、自分の非は、あたかも合っていそうな妙な理屈をつけてエクスキューズし、相手の非は逃げ場をなくすような言い方でねちっこく責め立てるという、何とも言えない不愉快さが伝わってくるものであり、時折実際にこういう人に出会うこともあることから、共感できる部分が少ない綿子に対してですら、思わず応援したくなってしまった次第。
また、古舘演じる木村の父親も同様であり、こちらもまた、何とも煮え切らない態度は、親としてどうよ、と感じたところ。
何より、鉄道やクルマといった乗り物好きの私としては、冒頭、綿子と木村が不倫旅行で利用していた列車が、小田急60000型電車によるロマンスカー(愛称:MSE(Multi Super Express))であったのは興味深かったのと同時に、綿子が運転するクルマ(綿子は無職であるため、実際は文則がメインで使っていると想定される)が、何と私の愛車と同じマツダ・CX-8で、グレードは違えど、ボディカラーも同じマシーングレープレミアムメタリックであったのには、これまた否が応でもテンションが上がらざるを得ないものであり、作中で同車を見たのは、白石和彌監督『死刑にいたる』以来二度目。
『わたし達はおとな』でも、クルマで暗に家庭環境の裕福さを表現していたことから、本作品でも、CX-8に対して、何らかの意味を持たせていることは想像に難くないが、私の家庭はさておき、ハイソな(古っ)雰囲気を漂わせる文則が、流行であるSUVを選択しつつも、作中で徐々に明かされる家族関係から3列シート車をチョイスしたという裏設定まで考えてしまったのは、流石に深読みし過ぎか。
と同様、画面比率が左右が切れたスタンダードサイズであったのも、本作品特有の閉塞感を演出しているものだとしたら、その選択は悪くない仕上がりとなっている。
日常の光景の中に溢れ出す会話劇の没入感が半端なく、その居心地の悪さに、傍観者である分には良いけど、間違っても当事者になりたくはないと思うとともに、客席に入ったら、なぜか私の席に、既に男性が座っていたため、危うくほつれそうになるところを、冷静に声がけし、わたし達は大人であったことから、お互い角が立つことなく、それぞれの席に落ち着くことができた良作。

とりあえず、謝ろうか。
ぶみ

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