ぶみ

ニトラム/NITRAMのぶみのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.5
僕は、僕以外になりたかった。

ジャスティン・カーゼル監督、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ主演による実話をベースとしたオーストラリア製作のドラマ。
1996年4月28日、オーストラリア・タスマニア島のポート・アーサーで起こった無差別銃乱射による殺人事件「ポート・アーサー事件」を描く。
主人公で犯人となるマーティン・ブライアントをジョーンズ、彼の両親をアンソニー・ラパーリア、ジュディ・デイヴィスが演じているほか、彼と知り合った中年女性ヘレンとしてニッシー・デイヴィスが登場。
物語は、死者35人、負傷者15人を出した前述の銃乱射事件が描かれるのだが、恥ずかしながら、事件については本作品で初めて知った次第。
そして、事件発生は終盤にあるのだが、直接的なシーンはなく、犯人となるニトラム(マーティン(Martin)を逆さ読みして蔑称として呼ばれていたもの)の日常から、犯行に至るまでの様子が中心となっているため、クライムものではなく、ニトラムのドラマとしての様相が強くなっている。
ニトラムは知的障害があるとのことだが、常に精神的に不安定な状況が窺え、いつそれが爆発してもおかしくないような雰囲気を醸し出しており、そんなニトラムをジョーンズが見事に演じ切っている。
特に、先日観たリュック・ベッソン監督『DOGMAN ドッグマン』でも同様に、主人公をジョーンズが演じ、壮絶な人生が描かれていたのだが、そちらが段階を踏んでいたのに対し、本作品のニトラムにおいて終始限界ギリギリの状態であったのが見て取れたのは、ジョーンズの演技の幅の広さを感じさせてくれたところ。
また、クルマ好きの視点からすると、中盤にある事故のシーンが思いのほかリアリティ溢れるもので驚いたのと同時に、クルマが登場するたびに、何か違和感があるなと思っていたら、以前ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ監督『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』でも書いたように、オーストラリアを舞台としているため、道路が日本と同じ左側通行であるが故に、登場するクルマが右ハンドルだったことであり、海外の瀟洒な街並みを海外のクルマが右ハンドルで走行しているのは、なかなか面白かった次第。
タスマニア島のカラッとした爽やかな太陽の下で繰り広げられる、陰鬱としたニトラムの感情が、いつ爆発するのかと気になって仕方なくなるとともに、たまにはジョーンズに純粋な笑顔ができるような役を演じてもらいたいと思う一作。

君はいつもあの子を追い詰める。
ぶみ

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