ぶみ

悪は存在しないのぶみのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
これは、君の話になる。

濱口竜介監督、脚本、大美賀均、西川玲等の共演によるドラマ。
自然豊かな高原の街に、グランピング場を作る計画が持ち上がったことから巻き起こる出来事を描く。
集落に住む安村巧を大美賀、その娘となる花を西川、グランピング計画企業である芸能事務所の社員を小坂竜士、渋谷采郁が演じているほか、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典、田村泰二郎等が登場。
物語は、移住者が増えつつある長野県水挽町を舞台として、そこに持ち上がったグランピング場の計画が杜撰だったことから、平穏な毎日を送る町民の間に動揺が広がっていく様が中心となるのだが、本作品の肝は、やはりその会話劇。
主人公とも言える巧を演じた大美賀は当初はスタッフとして参加していたとのことから、演技については素人と言っても過言ではないのだが、それだから故の朴訥さや単調な喋り方が次第に心地良くなってくるという不思議な魅力を持っている。
そんな大美賀を筆頭として、前述の他のキャストについても正直知らない名前ばかりであったことも、そのキャストを見ただけで犯人がわかってしまうような邦画サスペンスとは対局に位置し、フラットな気持ちで観ることができたことから、純粋にその会話劇に没頭できることに。
そして、平穏な日々の中、グランピング計画が持ち上がり、その住民説明会がなされたことをきっかけに物語が一気に動き出すのだが、この説明会が白眉の出来であり、町民側は遠回しに言う者あり、ストレートに考えをぶつける者あり、説明者側は計画自体が杜撰とはいえ、「持ち帰って検討します」とは言うものの、それは検討はするけど結果は変わらないことが見え見えのゼロ回答だあったりと、お互いこの手の説明会あるあるが凝縮されていて、つい食い入るように観てしまったのに加え、その後の説明者二人が再度町に向かう車中の、それぞれの本音が溢れ出る会話たるや、ずっと聞いていても飽きないのではと思わせるもの。
そんな中でも、昼食のシーンで「それ、味じゃないですよね」なる何気ない台詞で笑いを誘ってきたのも脚本の妙。
また、冒頭とラストカットで共通点を持たせたり、計算尽くされているのだろうが、その計算を一切感じさせない長回しであったり、はたまた誰の視点なのだろうかと思わせるクルマの後方カメラの映像であったりと、全てが伏線ではないかと感じさせる映像のように思えたのも特徴的だったところ。
クルマ好きの視点からすると、もはや懐かしさすら感じる三菱・パジェロと、パジェロミニが勢揃いしていたのは見逃せないポイント。
イメージビジュアルに冒頭書いた「これは、君の話になる」とあるように、例えば私の場合、仕事の上では説明者側の立場かなと思いながらも、一度仕事から離れれば町民側のスタンスになるし、お互いどこで折り合いをつけるのかを日々探り、絶妙なバランスのもとで社会が成り立っているのだが、些細なことからそのバランスが崩れだすと、悪意はなくとも思いもよらない結果になることを痛感させられるとともに、そんな余韻を与える暇もないくらい短いエンドロールも「現実なんて待ったなしなんだ」と言われているように思えた良作。

都会からは、ストレスを投げ捨てに来る。
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