かめの

ほつれるのかめののレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.3

良い人は良い言葉、行ないしか選ばない、ってわけではないし、人として不道徳な道を選んだからといって必ずしも悪人というわけでもない。この作品では完璧な人は(完璧な善人も悪人も)誰一人出てこなくて、どうしてそうしてしまったのか、論理的に言葉にしきれない気持ちを抱えながら生きている。

だから、当事者でない観客は、主人公たちが不倫したことよりもむしろ、その事実が明るみにするものに注視するべきなんだよね。

正直不倫するくらいなら、別れた妻と上手く距離感を取れない夫なんて離婚しちゃえばいい、と思うけど、主人公の態度や最後の告白(木村とどこへ遊びに行って、何をしていたか)を見るに、夫のことも愛していて、だけど子どもの面倒ばかりで一緒にいられないから、木村がいたんだな、と。だって、一人しか愛せないなんて結婚制度は嘘だから。

夫も夫なりに関係をやり直そうと頑張っていたし、主人公もそれに応えようとしていたけど、やっぱり上手く重ならない。だって、木村はいないのに、子どもはいるし、また振り出しに戻っただけ。

綿子が木村との関係を話し、その間際まで一緒にいたことも吐露した時、夫は本当にその死を納得する。だからきっとまたやり直せると思い始める。一方で、綿子は話せば話すほど夫への気持ちが冷めていって、木村のことばかり考えている。真反対の心の揺れに、ゆっくり手足の体温が冷えていくのを感じた。

予告だけ観た段階では面白いのかな、と警戒していたけど、最初から終わり方まで映画として人を描こうという姿勢が貫かれていて良かった。


追記.
しかし、私が父親だったら子どもの不倫のことは胸にしまっておくけどね。こういう父親だったから、何年も疎遠になったんか。事実だからといって、全てを話す必要なんかないから。
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