シミステツ

パラダイスの夕暮れのシミステツのレビュー・感想・評価

パラダイスの夕暮れ(1986年製作の映画)
4.0
ごみ収集車の運転手・ニカンデルとスーパーのレジ係・イロナの恋物語。イロナに好意を抱いたニカンデルは初デートでビンゴ会場に連れて行って大失敗したり、仕事を突如クビになったイロナは腹いせにスーパーの金庫を盗んだり、なんとも言えない労働者階級の世知辛さが随所に散りばめられている。二人が急接近した浜辺へのデート。ラジオを聴きながら寄り添い、ニカンデルがそのまま押し倒してタバコを持つ手へ寄るカットがファニーで不器用な二人を物語っていて好きだった。どんな時も煙草は持ったままというのが育ちを象徴している。

高級ブティックに勤めることになったイロナがニカンデルを疎ましく思うのも、自分を見ているような同族嫌悪的な感覚もあったのだろう。イロナに出ていくと言われあからさまにショックを受けるニカンデルが可愛らしかった。結局は身の丈の合う似たもの同士がお互いの生活の中で必要とし合う、愛しさに溢れた作品だった。

マッティ・ペロンパーの哀愁がめちゃくちゃいいし、ムード歌謡にも似た音楽が素敵。

「…なぜ私といるの?」
「俺には理由なんてない。
 あるのはただ、この名前と、ゴミ集めの制服、
 虫歯に病気の肝臓、慢性胃炎…
 いちいち理由をつけるぜいたくなんて、俺にはない」
「…ちょっと聞いてみただけよ」
「喋りすぎた」
「…冷えるわね」
「そうか…俺は感じない」