東佳苗

哀れなるものたちの東佳苗のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
映画を構成する全てのディテールが意志を持っていて、高尚すぎて鑑賞後暫く放心状態になった

衣装や美術や動力など、史実と絶妙に異なるようにSF的でパラレル/スチームパンクにチューニングした部分こそが覚醒を促していて、今後の歴史を変革する映画たる思想の軸があった

『あらゆることを経験するの 幸せだけでなく 波乱や 恐怖 悲しみも すると世界が見える』

この世を冒険をするには共有できる相手がいた方がそれはきっと楽しくて、
しかし成熟の速度が揃わない相手とはいずれ離れなければならない 
そうでなければ本当の自分の物語の次のページを捲ることはできない

ベラの圧倒的に揺るがない本能的な成長意欲と、無知で無垢なまま自由を手にする責任に、怯えない冒険心が大事だと教えてくれている

あわれなるものたちとは私とあなたのことで、試練の中のユーモアを面白がれることこそが、この治外法権の理想郷で生き抜く術だと感じる

善悪や常識非常識を超えた成長過程の全てを愛し、叱り、見守ることができるのはきっと親(≒そのような存在)だけで、
おおいなる矛盾や失敗や不条理を受け止め、受容されて育つことで人を愛する技術は伝承される 

誰のこともコントロールしてはならないが、
自分自身の幼稚さはコントロールする必要がある 
さもなければ…という皮肉を込めたとてもわかりやすい教典を私たちは手にしたと思う。
東佳苗

東佳苗