よねっきー

哀れなるものたちのよねっきーのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
なんともバロックな味わい。描写のエグさに若干引きつつも、ストーリーラインは痛快だし、こういう絵本じみた世界観は大好物なので、終始引き攣った笑顔でスクリーンを眺めていた。

邁進するベラの姿が愉快。冒険の中でベラは成長する——というかほとんど変身するんだが、スタートがほぼゼロからなのでそこまで違和感なく観れる。ベラからすれば、それは成長というよりも「発見」に近いのかもしれない。自分や世界についての、発見の連続。

観終わってから気付いたんだが、ダンカンにとってベラは典型的なファム・ファタルである。しかし何というか、ダンカンから魔性の女として扱われることが、映画では非常に迷惑なこととして描かれていて、良かった。お話は基本的にずっとベラの視点に寄り添っているので、観ているあいだはベラがファム・ファタルだなんて夢にも思わない。だって、赤ちゃんのファム・ファタルって変だもん。そこの描き方とか自然でいいですね。

ズームを多用したり、魚眼スレスレの超広角レンズを使ったりと、徹底的に違和感を打ち出す撮影は面白かった。それでいて、手ブレや像の歪みなど、要らない違和感は出ないようにかなり気を遣っていた印象。作り込まれたファンタジーな世界観を見せる上で、一役買っているように思う。

好きなシーンは色々あったけど、個人的には、暴力的なペアダンスのシーンがめちゃくちゃ良かった。エマ・ストーンの動きが、もう『ラ・ラ・ランド』の時とは比べものにならないグルーヴ感。ぎこちない、からこそ良い。コミュニケーションとしての側面が強いペアダンスで「喧嘩」をこうも美しく誠実に描いてくれたことに感動。

性描写が多いのと、製作陣に男性が多いことで、「マッチョなフェミニズム映画だ」と批判されたりもしてるみたいだが、個人的にはあまり違和感を感じなかった。構造の問題は括弧に入れるとして、セックスシーンなんかは全然ポルノ的な醜悪さに陥っていないように思う。男も女も脱ぐけど、エロティックには決して撮られてないので、そそられる瞬間なし。モザイクで気が散ることもなかったので、いま劇場で観れてよかった。
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