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哀れなるものたちのninekoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
Filmarksの平均スコアの高さに驚かされる。劇場公開中の映画の場合、点数がインフレして平均★4.0超えになることは別段珍しくないものの、なにせヨルゴス・ランティモスだし、このウケっぷりは興味深い。日本人好みのある種「スカっと」なオチ+少なくとも表面的にはハッピーエンドというところが、映画館を出たあとのテンションの高まりに作用しているということなのだろうか。さすがに邪推か。もっとも本作がこれまでのランティモス作品と比べても格段に「ポップ」なのは事実で、個性やアクを活かしながら満を持して売り出しをかけてきたような、そんな印象も受ける。

まずプロットがかなり分かりやすい。というか、これまでのランティモス映画は物語や世界観の全体像を観客に提示するまでが長く、前半数十分は完全初見だと何の話なのかさっぱり分からない、ということが珍しくなかったが、今回は割と早々に「ああ、そういう話ね」という部分が明らかになるし、極端なツイストもない。なのでストーリーを追いやすく、逆に、大体のあらすじを頭に入れてから観ても面白さが目減りしにくい(あのオチだけは楽しみにとっておいた方がいいかもしれないが)。

加えて、俳優の演技=怪演で引っ張っていく作りになっているところも映画としての取っ付きやすさに繋がっている。いわゆるスター俳優陣の起用は『ロブスター』から続いているが、これまではどこか作品世界を構築するために役者の個性が封じられていたきらいのあるところ(『ロブスター』と『聖なる鹿殺し』のコリン・ファレルのキャラクターの差!)、本作ではエマ・ストーンをはじめ俳優たちがかなり伸び伸びと演技をしているように思えた。それもあって、かつてのランティモス映画ではじっとりした嫌さをまとっていたキャラクター達が、本作では皆どこかチャーミングである。まあ正直、『ロブスター』でハマり、それ以降の2作+『籠の中の乙女』も楽しんできた立場からすれば、セルアウトだー、などと言いたくもなるのだが、ヴェネチアで金獅子という文句なしの結果まで付いてきているわけだし、これがひとつの正解であることは間違いないのだろう。

色々な醜聞を経たこともあり今となってはあまり名前を出したくないが、園子温とランティモスの類似性を感じた映画でもあった。早い話が、本作は『愛のむきだし』×『恋の罪』みたいな内容である。男性性の強烈な否定、性的快楽への畏れと憧憬、そして女優の身体性への拘り。ただ、けっきょく園がそういった作家性の裏に抱えていた欲求ゆえに他人を加害し、自身の足下をも掬ったのとは対象的に、ランティモスは自身の変態性(と、あえて言おう)をコントロールし、アウトプットする術をしっかり心得ていたということなのだろう。あるいは、今回製作にも携わったストーンがその部分もふくめて「プロデュース」したということなのか。

『哀れなるものたち』には、前作以上にストレートな、古典的とすら言えるフェミニズムのメッセージが内包されている。それは、ランティモスのマチズモ嫌悪、並びにそれと表裏一体のどす黒い欲望を、女性たち(ストーン以外にも、本作のカメラの後ろにはリーダー的立場に多くの女性がいるという)が分析・解体・再構築したことで導き出されたものなのかもしれない。少なくとも自分はそう考えたので、三田格さんの評には半分同意で半分反対。
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