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ハウス・オブ・マンソン アメリカが生んだ悪魔のblacknessfallのレビュー・感想・評価

3.4
またマンソン映画作られてたんだな。タランティーノの『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ハリウッド』でフックされた影響なのかな?
トータルで何本あるんだろう。余裕でマンソン映画祭やれるぐらいはあるよな確実に。
何にせよ飽きもせず観るヤツがいるからいけないんだよな。でも、マンソンは60年代のアメリカ社会の歪みを体現してたり、シャロン・テート、ロマン・ポランスキーとの因縁、ビーチボーイズのデニス・ウィルソンとの親交とか華やかなゴシップ的なおもしろさもある。当時のアメリカのポップカルチャーが好きなら無視できないんだよなぁ。殺された被害者や人生狂わされた若者達のことを思うと興味本位で観るのはどうかと思うけど観てしまった。

おれもそうだけどマンソン・マニアに取ってはこれと言って何も驚くことがない、所謂、一連のマンソン事件てこんな風ですよ、て感じの薄味の映画。唯一新しかったのはマンソン自身のモノローグがあること、マンソンが自身の生立ちを担当弁護士に語り、それに回想シーンをつける演出。
なんで幼少期やヒッピーのカリスマになる前のマンソンが観れる。しかもマンソン自身の認識で。内容はおれのように『チャールズ・マンソン 悪魔の告白』を読んでるマニアは知ってることではあるので驚きはないんだけど、幼少期のマンソンが映像化されてるのは本作だけだと思うのでマニア的な喜びはある笑 子供マンソンが観れるのは本作だけ👦✨

しかし、この手法だと問題なのはマンソンは無罪を主張してたのでシャロン・テート殺人事件等のマンソン・ファミリーの起こした事件を描くことができなくる。それを弁護士が検察の主張を語りマンソンに問うことでクリアしてるのはうまいと思った。これも当然回想シーンが入る。

しかし、毎度、マンソンについて思うのは社会の排他性に対する批評の鋭さと自信を失い行き場のない者達の心を掴む巧みさに驚く。逆に言えばそれしか取り柄のないよくいる男。良くてカウンセラー、悪くても詐欺師にしかなれない程度の器なんだよな。
でも、時代がマンソンに味方した。崩壊家庭の子供として悪事に手を染めシャバと刑務所を往復する小悪党に過ぎないが、ミリテリアスな雰囲気のある容貌と弁が立ち音楽の才能が多少あることでフワラームーブメントにシンクロした若者達からは社会常識の欺瞞の外にいる自分等の親達とは違う真の大人に見えてしまい、彼等はマンソンに心酔していく。それまで小悪党として蔑まれていたマンソンは彼等に慕われ尊敬されることに戸惑いながら気を良くしていく。ちょっと前までは相手にもされなかった若く魅力的な女性達を自分の意のまま動かせることに奇跡を感じていたと思う。
自分が王様の「このコミューンを一生死守したい」そう思ったマンソンは経済的基盤を確立しようとビーチボーイズのデニス・ウィルソンに音楽プロデューサーのテリー・メルチャーを紹介してもらいレコードデビューのチャンスを掴む。しかし、仲間内で絶賛されたマンソンの曲にテリーは難色を示しミュージシャン・デビューは消えコミューン維持も危うくなる。何よりマンソンを全能の指導者(グル)と崇める若者達の信頼も揺らぎ始める。どうすればいいのか?

結局、行き詰まり悟ったマンソンはそれらの現実的問題から逃避するため、そして、信者の若者の眼を逸らせるため。黒人と白人の最終戦争の後、マンソンが世界の統治者になるという世迷い言、かの有名な"ヘルタースケルター"を唱え信者達を洗脳していく。
最終戦争を起こすためと命じた一連の殺人もよくよく見れば麻薬の売人から金を奪う強盗にだったり、シャロン・テート殺害に至ってたはテリー・メルチャーを私怨で狙ったが、テリーはその家を引き払い、その時住んでいたのがシャロン・テートとポランスキー夫妻だったというお粗末なもの。全てが後づけで行き当たりばったり。

マンソンのカリスマは時代と偶然がもたらしたものに過ぎない。寂しく卑小で孤独な犯罪者という実態は若い頃から変わってない。
本作が良かったのは残酷なまでにマンソンの実態を浮き彫りにしているところ。
罪を認めず。俺達はファミリーだ。行き場のない者達を受け入れ愛を与え幸せに暮らしていただけだ!と自己を正当化するマンソンに怒った弁護士が「ファミリーだとおまえが言うスーザンが留置所で同房者に犯行を話したぞ!」「おまえは自分の寂しさ誤魔化すために若者を利用した詐欺師だ」と怒鳴りつける。
これは道徳的にいい演出だと思った。実際、マンソンに最も心酔し忠実だった女性、スーザン・アトキンスが犯行を話したのも事実。効果的な事実の使い方だと思った。
でも、スーザン・アトキンス役の人がダメだったな。マンソンガールズの中でも一番の美女なのに本作の人はヘアスタイルとか雰囲気は寄せてたけど顔が童話に出てくる性悪の魔女みたいであんまりだったな。本作に限らずスーザン・アトキンスは軒並み実物より劣るか、全然美女じゃない人がキャスティングされてんだよな。何でだろう?いつか本人に近い美女のスーザンが出てくるマンソン映画観たいよ。

とにかく、これまで誇大妄想狂や魔性のカルト教祖、アメリカ社会の矛盾の落とし子として過剰に意味付けされて扱われることの多かったマンソンを卑小で憐れな男として描いたの好感が持てた。まあ、でも、おもしろくはなかった。それはおれがマンソンに僅かに、好意と共感を持ってるから。惨めなとこばっか強調されて悲しくなった。不謹慎なのは承知してるけどそう感じてしまったんだ🥺
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