よねっきー

絞殺魔のよねっきーのレビュー・感想・評価

絞殺魔(1968年製作の映画)
4.9
複数の視点が目まぐるしく駆け回る、エキサイティングな迷妄劇。実在の事件を元にした作品に対してこんなことを言っていいのか分からんが、めちゃくちゃ面白かった。まだ事件がホヤホヤ(なんなら未解決)だった時期に、よくこんな意欲作を公開できたな……。

プロダクション・コードが撤廃され、長かったスタジオ時代が終焉を迎える1968年。映画の新しい在り方を模索しようという時期にドサクサで生まれた、奇跡みたいな映画だ。

目眩のするような編集にやられた。ここまで大胆にマルチフレームを活かしてる映画、現代でもほとんどないよな。こんなカッコいい先駆者がいて、なぜ誰も手を出さないのか……。恐れ多いからかな。デジタルの編集が存在しなかった時代に、一体どうやってこんな複雑なモンタージュを作り上げたんだ? フィルムでの作業量を想像するとちょっとゾッとするな。でも、今までずっと「透明であること」を求められてきた映像編集者たちが、白日のもとで元気に活躍しているみたいで嬉しい。
編集の複雑さは後半から更に加速していくのでもう完敗。舞台が室内に限定されても、表現の手数はどんどん多くなっていく。短く挿入されるショットがいちいちめちゃくちゃカッコいい! 逆光の廊下でおっさんが喋ってるショットは『マグノリア』の冒頭で真似されてるような気がする。

派手な編集の陰に隠れてるが、脚本もめちゃくちゃ上手いと思う。いかにもミステリらしい「誰がやったか」のサスペンスは途中であっさり投げ捨てられ、気がつけば取調室で「自供を引き出せるかどうか」のサスペンスへとシフトしている。しかし決して見づらくないというか、物語が横滑りしているような印象は受けない。刑事たちに一貫した「こいつは何をやった?」という問題意識が、終盤の犯人側の視点と奇しくも重なってるからだろうか。
ミスリード用の容疑者を導く手段が超能力だったりと、ご都合主義的な省略を活かした語りも上手い。

長回し撮影みたいに「アナログからデジタルへと技術が進歩したことで、逆に陳腐化してしまった表現」って結構あると思うんだけど、今作みたいな編集の表現ってまだ開拓され尽くしてないように感じる。現代映画、もっといける。頑張っていこうぜ。
よねっきー

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