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ペッツ・アウトローのblacknessfallのレビュー・感想・評価

ペッツ・アウトロー(2022年製作の映画)
4.3
タイトルに惹かれたよ。ペッツとアウトローて離れすぎるじゃん。どういうことなんだろうって。

90年代初頭、ライセンスの関係でアメリカでは出回ることのなかった欧州のペッツ・ディスペンサーを大量に持ち込みアメリカのペッツ・ディスペンサー・コレクター・シーンに熱い嵐を巻き起こした男、スティーブ・グリューの一代記。

まず、驚いたのはペッツ・ディスペンサーのコレクター市場の大きさと熱さ。頻繁にイベントが開催され、参加者のコレクター達はレアなディスペンサーには数十万円を払ってでも手に入れる。
そんなシーンにアメリカでは手に入らないディスペンサーを大量に持ち込んだスティーブは瞬時にペッツ成金になる。

スティーブはそれまで工場勤めの普通のおじさんだったんだけど強迫神経症の持ちの変なおじさんでもあった。妄想癖があり周囲から揶揄されがちなキャラ。
強迫神経症のせいで蒐集癖が強く、シリアルのオマケにハマると異様なテンポでシリアルを買い集めオマケを大量にゲットする。あまりのことにシリアル会社がオマケの規約を世帯1つに変更し制限するほど。そのオマケをコレクター・マーケットで売っておこづかい稼ぎをしてた。そして、あるマーケット・イベントで高値のペッツ・ディスペンサーを見つけ、これだと思い欧州ペッツを手に入れるため欧州旅行を敢行。

本当に思いつきでどうやってペッツ・ディスペンサーを手に入れるかも深く考えてなかった。
この挙動不審で夢想家のような行動力。神の啓示を受け(たと思い込んで)単身ビンラディンを捕まえに行って大騒動を巻き起こしたゲーリー・フォークナーに似てる。
こういう人を量産するアメリカのおバカな風土は好きだな。因みフォークナーはおれ達のケイジ主演で『俺の獲物はビンラディン』というタイトルで映画になってるから、ケイジとこの手のちょっと迷惑だがおもしろい夢想家好きの人は観てくれよな。

この商才も機転も効かなそうなエキセントリックな夢想家のスティーブがどうやってペッツ・ディスペンサーを手に入るのかと思ったらパッケージから工場を突き止め工場から買い付けるという身も蓋もないものだった。こんなの無理だと思うけど、実際手に入れるんだよな笑 方法はハッキリ明かされてないけど恐らく賄賂を使い横流ししてもらってると思われる。当時の欧州工場の1つで工場長をやっていた老人がインタビューで「当時は混沌としていてたからねぇ」と自分はやってないと前置きしつつ意味深なニュアンスで話す。
ペッツの工場は主に東欧にあり、当時の東欧はソ連崩壊の影響で経済がめちゃくちゃで賃金が安く国自体の明日をも知れない状況。そこに世界一強い通貨、ドルでディスペンサーを大量に買うという変り者のアメリカ人が訪ねてきたら…笑
こう書くとスティーブはクレバーな男だと思うかも知れないが、まったくそんなことはなく政治には興味が皆無で内戦状態で危険なことも知らず工場を目指してクロアチアやスロベニアに車で侵入する。当然、危ないめに遇う笑 行き当たりバッタリの珍道中と短絡的な作戦(工場から直買い)がたまたま成功しただけ笑

さらに幸運なことに税関で止められるものの、大量のペッツ・ディスペンサーを差し押されられることなく入国することに成功する。
本来、アメリカの会社がライセンスを取得しているペッツ・ディスペンサーを販売目的で入れることはできないのだが…それはアメリカ・ペッツの手続きミスが原因だった。ライセンスの取得を税関に届けを怠り持ち込み禁止品目から外れていた!
スティーブ、マジでラッキーガイなんだよ。

そんなわけでスティーブの欧州ペッツ・ディスペンサーはコレクターに高値で買われスティーブは一躍大金持ちに。周囲にバカにされながらもいつか冒険をして成功者になるという夢を叶える。

しかし、欧州から持ち帰ってたサンプルが数台だけのディスペンサー、バブルマンがスティーブの破滅を招く。
このバブルマン、キモいひょっとこみたいな顔で商品化されなかったのも納得のダサいデザインなんだけど、これを考案したのがアメリカ・ペッツの社長。それまでスティーブのことを快く思ってなかったものの市場が被るわけじゃないから見逃してた社長だが、「俺のボツデザインで大儲けしやがって、許せん」💢と激怒する。スティーブ潰しに乗り出すアメリカ・ペッツ社は手始めにバブルマンを正式発売してレア・アイテムとしての価値を無くす。
自分の功績を汚されたスティーブはアメリカ・ペッツ社長に怒り復讐を誓う。「ペッツ・アウトローに、俺はなる!」と息巻き、本格的に欧州ペッツの買い付けを始め次々とコレクター市場に流す。タイトルのペッツ・アウトローはスティーブが自分で名乗ってたことに感動した。ネーミング・センスがいいよな笑

ここにアメリカ・ペッツ社VSペッツ・アウトロー(スティーブ)のペッツ・ディスペンサー戦争の火蓋が切られた!
しかし、大資本がマジになれば個人はあまりに無力。アメリカ・ペッツの強い要請により欧州の工場はスティーブにペッツを流さなくなる。各工場に顔写真付き横流し禁止のお触書が貼り出されることに。
ペッツ・アウトローとして行き詰まったと同時に愛する妻がパーキンソン病を発症する。スティーブはこんなキャラだけど奥様も子供いるんだよ。先のデンジャラスな欧州工場旅行も息子がサポートしているし、奇人として周囲にバカされてるスティーブの中の善良さを見抜き奥様は18才でスティーブと結婚してる。ペッツ・アウトロー以前からハチャメチャなスティーブを常に支持して寄り添っている。

そんな彼が愛する息子、そして病になった奥様のためスティーブは勝負に出る。
なんと、自らペッツ・ディスペンサーをデザインしてそれをコレクター市場に売り出す計画を立てる。この辺、法律的に問題にならなかったのが不思議なんだけど欧州工場に発注してOK貰い、商品を一度中国に届け、そこからアメリカの自宅に送る。そうすると合法に売ることができるらしい。実際スティーブの計画どおりになる。そもそも要注意人物としてマークしている人間の受注を受ける欧州工場の対応も謎だが笑それはともかく、コレクターの気質、嗜好を知り抜いたスティーブのオリジナルのディスペンサーはコレクター達を熱狂させ売れた。完売すれば財産が築け安泰だ。

しかし、喜ぶのもつかの間、アメリカ・ペッツ社の魔の手が…スティーブ潰しのためアメリカ・ペッツは非公式ライン・シリーズと銘打ちスティーブ・オリジナル・ディスペンサーを模したものを発売する。売値をスティーブより格安にして。
こうなったら誰もスティーブのディスペンサーを買わなくる。大量の在庫を抱えたスティーブは破産し失意のスティーブはペッツ・ディスペンサー・シーンから姿を消す。

時は流れ現在、スティーブは妻と小さな農場営み慎ましい性格を送る。借金返済に苦しむ生活だが精神は満たされている。
ペッツ・アウトロー時代を綴ったブログが徐々に話題になりディスペンサー・コレクター・シーンが彼の存在を思い出し当時を知る者達からの称賛の声が届き始めた。
破産した惨敗者との思いから拒んでいたペッツ・ディスペンサー・コンベンションにゲスト参加。スティーブのトーク・ショーは大盛況、賛辞の嵐、握手、サインを求める者の中には当時を知らない若きコレクターの姿も。
この展開、一瞬不可解に思った。言ってもスティーブは転売屋に過ぎないのに何故?と。
でも、実は全然違うとすぐに分かった。転売屋は市場にあるモノを買い占め高値で流すのに対してスティーブは市場にないモノを大量に流し市場を活性化させた、色をつけた価格だが確実にコレクター達の収集の数とバリエーションを増やすことに貢献した。誰もが思いつかないやり方を躊躇なく実行しそのことに人生を掛け、大資本の圧力に屈せずコレクター・シーンにディスペンサーを流し続けた。尊敬されて当然なんだよ。こういう人を正統に評価し暖かく接するアメリカ人の気質は素敵だと思う。
日本だと「アメリカ・ペッツしか売っていけないものを売ったからダメなんでちゅ」「とにかく転売は違反でちゅからね」とか良識人且つ識者ぶって言うヤツが湧いてくるんだよ。それも多数な。でも、こいつら別に良識的でも識者でもないただのキモオタ拗らせて権威主義転んだおっさんで取るに足らない庶民のルール違反を叩くか萌え画のアニメ見てシコってるだけのキモい何かなんだよ。しかも、こいつらオタクだから自分等がズリネタにしてるキャラのペッツ・ディスペンサーがあったらそれが違法なもんでもハフハフとキモい吐息を漏らして買いまくるからな🤮 そんなヤツにスティーブを非難する資格はない😤
そんなだから権力や大資本の目線を内面化させ連中に都合の良いだけの理不尽なルールを絶対視した前提でしか物語を読めない奴隷なるんだよ。だから、コレクター・シーンを活性化させ大資本に一杯食わせたスティーブの偉業をただの転売屋の破滅としてしか理解できないんだ。
スティーブは経済的に破滅したかも知れないが、強者に抗う概念をなくしたおまえは精神的に破滅している。
狂おしい熱量で行動し人生を懸けて強者に立ち向かった人間を嗤うな。保身と隷属だけのポーザーめ。
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