しの

ザ・クリエイター/創造者のしののレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.8
このAI観は真に受けない方がいい気がするが、一方でこれくらい割り切らないと描けないものもあるよなと思う。AIと人間の境界は……などと真剣に哲学する作品なんてたくさんあるわけだから。その点本作は「境界なくしてみた! ヤバいよね! どう?」という無邪気さが良かったし、そのぶん世界観構築が素晴らしい。

まずニューアジアのビジュアルが非常に良かった。今と変わらない田舎町に未来のテクノロジーが当たり前のように存在している、みたいなSF映画の光景はよくあるが、本作のそれはブレラン化した渋谷だの東南アジアの漁村だのチベット寺院だの、舞台のごった煮感が楽しいし新しかった。わざわざWANTEDを「募集中」なんてトンチキに訳しているあたり、このニューアジアの位置関係のおかしさ精度の低さカオス感ふくめ、ある程度意図的なものとして楽しめた。

また演出も良くて、普通の旅客機の窓からめちゃくちゃスター・ウォーズな空中要塞が見えるとか、その(まさにデス・スターな)要塞の内部を子どもが単身で駆け回るとか、「おおこういう光景の提示の仕方ってあまり見たことないな」という場面が結構ある。ガジェットやメカもいちいち記憶に残るもので、青いレーザーは格好いいし、ダサ走り爆弾ロボットなども最高だった。

一方、話はかなり予定調和というか、もはやお膳立てのお膳だけでできている感じで、主人公の選択もそりゃそうなりますよねとしかならない。そもそも本作に登場するAIはAIというより異種族に近く、どちらかというと民族紛争や異文化(宗教)受容の話だ。オチも『ローグ・ワン』に続きまたそれかと。そもそも話の流れが全く整合してない部分もあり、「この子を直さなきゃ→あの人なら直せる→5年前からこの状態です」のくだりなんてどういうことやねんとしか思えない。

逆にいえば、それだけの話に130分以上かけて、それでもこれだけ面白く感じるのは、やはり光景の見せ方が巧みなのだと思う。オリジナルSF映画で久々に「眼福」の2文字が頭に浮かんで嬉しかったし、あのラストカットには感動してしまった。
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