しの

怪物の木こりのしののレビュー・感想・評価

怪物の木こり(2023年製作の映画)
2.6
サイコスリラーかと思わせておいてヒューマンドラマ! をやりたかったのは分かるが、そもそも本作におけるサイコパスというのが何なのか不明瞭で、結果的にミステリーとしてもヒューマンドラマとしてもよく分からないことに。出てくる要素がここまで何も噛み合わずに終わる作品というのも珍しい。

まず主人公だが、いわゆる「目の奥が笑ってない」系ではなく、普通に悪いことしてる悪い奴でしかないのだ。これに対するエクスキューズがあるといえばあるが、いずれにせよサイコパス(にされた人)の話として進んでいくのでおかしいと思う。サイコパス=殺人鬼とでも思っているのだろうか。この話をやるとすれば、「悪人だと思ってた人々が実は可哀想な犠牲者でした」の線を突き詰めてサイコパス云々は要素から外すか、あるいは「サイコパスだと思ってた人々がサイコパスでも何でもなく、ラスボスとして真のサイコパスと対峙する」という筋にするかだと思うのだが、いずれでもない。

その一方で、たとえば危うい捜査をするプロファイラーだったり、暴力沙汰を起こして更迭された刑事だったり、「一般人とサイコパスの境界」みたいなものを揺るがしたいのか? と推察できるキャラクターを置いているのだが、結局話のどこにも結びついてこないので、これもまたよく分からない。他にも、「こいつは天然もののサイコパスです」というキャラクターを登場させているのに、とくに話に関わってこないとか、連続殺人の犯人に関しても、よく考えたらその状態でそれをやってたあなたが一番おかしくない? みたいなことになってるのだが、そこも特には掘られないとか……。

恐らく本作は「その人を規定するのは人格か行動か」みたいなテーマをやりたかったのだろうが、前述のとおり、置かれているキャラクターがこの揺さぶりに何も寄与しないし、サイコパスというものの扱いもよく分からない。あと主人公に対して言いたいのだが、「怪物として生きるか人間として死ぬか」みたいなことをやるのはいいし、ラストで彼が呟く一節はその問いかけなのだろうが、人間として生きるならまず自首すべきなのではないか。罪を背負う! とか言って意気込んでいるが、全然いい話になってない。だからあのラストシーンは全く筋違いに感じた。

そもそも、サイコパスというものを「便利な怪物人格」のラベルとして利用しているのが失礼というか、浅はかな気がして自分は好きになれなかった。そのように生まれついてしまった人の苦悩を描いているようで、別にそういう話ではないわけだし。かといって映画として印象的な場面もない。あと、演技や台詞の作り物感が半端ないので、これはサイコパスであることの演出なのか? と思ったら、登場人物全員そんな感じの演技だったので単にこの作品のトーンが合わないだけだった。「俺たちサイコパス」とか言うサイコパス、何なんだ?

結局「サイコパスって言いたいだけだよね」と言いたくなる予告編のあの印象そのままだった。予告編がミスリードになってなくて本当に残念だ。

※感想ラジオ
【酷評】まさかのヒューマンドラマ?『怪物の木こり』のサイコパスとは何だったのか
https://youtu.be/BAtmSW7MfC0?si=MxFOLdbaNoJ8KA_Z
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