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怪物の木こりのKeithKHのレビュー・感想・評価

怪物の木こり(2023年製作の映画)
3.0
サイコパスVS連続殺人鬼、超刺激サスペンス、「狂っている方が生き残る」という物々しくおどろおどろしいコピーで煽っているのが本作です。
巻頭のマッドサイエンティストの実験事件現場への家宅捜索、それに続く山道での高速カーチェイス、このオープニング数分で観客は血腥い臭気と、異常な猟奇的空気感に包まれ、ほぼ無意識的に三池崇史監督の世界に誘い込まれてしまいます。

不気味な効果音と短く無機質的なBGMが不安感を高めます。その上、人物の寄せアップを多用、更に人物を殆ど上手に配し下手に何かが現れるかのようなアンバランスな構図にすることで観客の不安感を一層増幅させます。而も室内シーンは照明を落とし、屋外シーンはほぼ夜というように作品全体を通じて常に暗い映像にして嫌悪感を漂わせます。唯一、染谷将太扮する杉谷医師の登場シーンのみ殊更に明るくしていたのが印象的でした。多分杉谷の異常性格キャラクターとのコントラストをつけて、暗い映像ばかりの中の一種のブレイクにして目先を転じさせるためだったのでしょう。
カメラはローアングルが多く観客を心理的に圧迫し、格闘や殺人シーン、殺人現場検証シーンは悉く手持ちカメラで撮られるために映像が揺れていて、いわば船酔い状態に陥れます。
これだけ見事に映像制作に工夫されていながら、カット割りにメリハリがなく平板で、そのため戦慄するような恐怖感が煽りきれていないのは残念です。

演技面では、亀梨和也演じる主人公・二宮彰を始め、登場人物が無表情で喜怒哀楽を感じさせません。サイコパスを描く映画には相応しい演出で、傲慢で尊大、冷酷で残忍な性格を却って実感させました。

さて映画でのサイコパスは、傲慢さ、尊大さ、冷酷さ、残忍さは人前では表面に出さず、常日頃は冷静で客観的な判断力を有して慇懃な言葉遣いをしています。
心の奥底には多かれ少なかれ激情的で強欲さを秘めながら、表面はジェントルマンを演じる人間は、程度の大小はあるにせよ、実は世の中に数多います。無論、心中で何を思っていようと、行動しない限りそれ自体は何の犯罪にもなり得ません。
ただ人は時と場合によって、理性の抑制が効かず豹変します。正常と異常の境界、換言すれば一般人と犯罪者との境界は、決して二項対立的な位置づけではなく、連続的ではないかと思います。
本作は、狂気の人間をデフォルメしてSF的サイコ・クライム・サスペンスドラマ、つまり架空の物語に仕上げていますが、世間に多く見られるキャラクターである短気・低協調性・粗暴・低倫理観が、ほんの一歩違えると起き得てしまう、或いは起きている事件が本作ではないか、と思い至ったしだいです。
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