しの

リアリティのしののレビュー・感想・評価

リアリティ(2023年製作の映画)
4.1
そもそもFBIの尋問録音を一言一句コピーして演技する試みが実験的で鮮烈だし、これによって「うわこんなくだり創作だったら絶対書かないだろうな」というリアルさが垣間見えたり、逆に「うわこういうこと現実のFBIもマジで言うんだ」みたいなこともあったりして、何でもないくだりも面白かった。

いきなりFBIに声をかけられる所から始まるのだが、かなりフランクに猫の話とかジムの話とか世間話をしていて、なかなか本題に入らない。しかし次第にFBIがぞろぞろ到着してくる。どう考えても確たる証拠を持って攻めてきてるのだが、主人公も平然としているように見える。緊張感のない緊張感。

とはいえ、この主人公もあまりに平然としているように見えるので、「あれこの人本当に身に覚えがないんじゃないの?」とも思える。しかし尋問が本格的に始まると、ちょっとした会話から綻びが出てくるのだ。尋問といっても基本的には世間話のトーンなのだが、要所でFBI側の語気が微妙に強くなったりして、ああこれは尋問なのだと気づく。第二幕ではそんなリアルな緊張感がある。

こうしてプレッシャーに押されていき、ついに思いの丈を吐き出す主人公のグラデーション的な演技が素晴らしい。平然としていたようで内心は恐怖を感じていたんだという実感が遡及して湧いてくるし、もっといえばそれは「あの事件を起こした人物は、複雑な内面を抱えた等身大の25歳だったのだ」という気付きに繋がるのだ。

そしてまさにこの「ニュースでは一面的に表象されてしまう人物を、イデオロギーに回収せず複雑で等身大の人間として提示する」ことが本作の根幹だと思うし、映画化の意義もそこにあるだろう。部屋や仕事場のデスクに置かれたちょっとした小物などをしっかり映すことに、その気概を感じる。

その意味で、本作が何を提示しようとしたかがラストでようやく明らかになる構成は非常に効果的だった。つまり、ああやって報道はされたけども、本当にそれだけでいいのか? ニュースに悶々として、キャリアに悩み、しかし地道に生活して大義を信じた25歳の女性がこの事件を起こした、というディテールは捨てられていいのか? ということ。そう考えると、まさに本作が画面に映される小物一つ、あるいは台詞の合間の咳払いのタイミング一つにも気を配った“ディテール”の映画であることにも納得がいく。

もちろん、決して彼女の行為を正当化するような話ではない。ただ、大きな物語に回収されたディテールが多過ぎるということだ。そして当然、こんなディテールを正面から受け止めることができるのは、タップやスワイプ一つでインスタントに摂取できるニュースではなく、やはり映画という「その人の生に強制的に対峙させられる」メディアによってこそだろう。

もちろん、実験的な作品ではあるので、会話劇というより会話でしかなく、たとえば『対峙』のように練られた展開を期待すると面食らうと思う。ただ、そんな中で記録映画と劇映画、すなわち写実と物語の境界が揺らぐ体験は確かにあって、これもテーマに通じている。題含めできすぎな作品だった。自分が今年の映画のテーマだと思っている「理解し得ない(あるいは既に理解している)はずの他者に想像をめぐらす」ということについて、非常にユニークな方法で語っていた作品として、年間ベスト10には入れたい。
しの

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