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私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?のfujisanのレビュー・感想・評価

3.7
『彼らは許さない。特に女性には』

前からClipしていた映画をようやく観てきました。上映回が少なかったこともあり、入りはそこそこ。内容的にも、とても良い映画だったと思います。

とはいえこのレビュー数。。たしかに情報が少ない映画なので、少し詳しめに書きたいと思います。




本作は、仏の雑誌記者カロリーヌ・ミシェル=アギーレの著書『LA SYNDICALISTE(組合活動家)』を原作とする実話ベースの映画。

原発大国フランスで原発の労働組合員5万人を率いる女性、モーリーンが会社方針を明るみに出したことで性的暴行を受け、裁判で闘うというのがメインプロット。2018年の話なので、つい最近の出来事です。

2012年のフランス。前年日本で発生した大地震により世界的に原発事業は大きな影響を受け、フランス最大の原発国営企業アレバは経営危機に陥ります。

そこで、アレバは原発技術を中国に売却することを決め、極秘裏にことを進めようとするのですが、それによってフランス国内で多くの失業者が出ることを察知したモーリーンは行動を起こします。

モーリーンは政治家へのロビー活動など積極的に活動を進めますが、それをよく思わない勢力によって、自宅に一人で居るところを暴漢に襲われます。

両手両足を縛られ、お腹にはナイフでマーク状に傷をつけられた上、局部にナイフの柄を差された状態で発見されるという凄惨な状況。

暴行を受けたモーリーンは、それでも折れずに組合員のために闘いを継続しようとしますが、味方になるはずの警察は、DNAが検出されないなどを理由に彼女の自作自演と断定し、逆に虚偽告発で立件するという驚きの行動に出ます。

さらに、捜査や裁判の過程で、屈辱的な検査や再現実験をさせられるモーリーン。これは、セカンドレイプどころの騒ぎではない、”レイプ被害の継続”です。

世間からも白い目で見られ、結果的に職を退かなければならなくなったモーリーンを支えたのは献身的な妻を支える夫と家族。それに、圧力に屈しない、強い女性たちでした。


■ 映画について

『権力というものがいかに作用するものなのか、権力に歯向かおうとする者に対する容赦のない暴力がいかなるものかをリアルに描きたかった』というのが監督の意向。

一見、リベラルで自由を重んじる国に思えるフランスですが、警察の闇も深く、その暴力性は「アテナ」など様々な映画でも描かれています。

本作は、登場人物が全て実名で登場するという挑戦的な脚本。
内容が内容だけに、内容は全てモーリーン・カーニー本人の確認をしてもらったそうですが、これが公開されヒットするところにフランスの懐の深さを感じます。

また、メインは権力の闇ですが、絶望の底から立ち直るには、愛情や仲間がいかに大事かが表現された映画でもあり、女性の連帯、ハーベイ・ワインスタインの性的暴行を告発したシスターフッドの映画「SHE SAID」にも通じるところがありました。

本作で主人公モーリーン・カーニーを演じたのは、フランスを代表する大御所女優のイザベル・ユペール。10代からキャリアを積み始め、50年以上。いまや出演作は100近い彼女ですが、なんと御年70歳。

年齢でどうのこうのではありませんが、代役無しで事件の被害者を演じる事ができるわけですから、恐れ入ります。


■ 感想

本作で描かれた事件は酷いものでしたが、それでも、日本よりは二段階ぐらいは進んでいるのかなと思いました。

最近でも、伊藤詩織さんの件や、元女性自衛官 五ノ井里奈さんのセクハラ被害など、少しずつ女性が声を上げるケースも出てきていますが、まだまだ少ないのが実情。

『フランスの年間レイプ被害件数は日本の15倍』

とある記事で読んだ数字ですが、一瞬、フランスって物騒な国なんだな、と思ってしまったことも事実。被害に遭った人が告発できていないのが事実なんですけどね。

最後に、この映画に寄せられた女性映画評論家 児玉美月さんの言葉を引用して終わりたいと思います。

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性暴力を受けた女性が、その直後に医師の前で真紅の口紅を引き直す。

--映画の序盤を描写したこの一文に違和感を覚えたものは、まずその違和感を疑ってほしい。
この映画には、「よい被害者」という言葉が反復される。すでに傷つき疲弊している被害者が、その後さらに「よい被害者」を求められ二次的な暴力を受けてゆく。

わたしたちは、この映画とともに、状態化した構造へ強固なNOを突きつけなければならない。
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映画では、レイプ被害後に医療機関で治療を受けたモーリーンが、直後に病室内の洗面所の鏡を見ながら真っ赤な口紅を引き直すシーンがあります。

これは、女性であるモーリーンが男社会で再び闘うための『再武装』なのですが、この行為が『被害者がとる行動とは思えない』という印象を持たれてしまいます。

勝手な思い込みこそ闇への入り口。気をつけたいところです。




2023年 Mark!した映画:305本
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