パケ猫パケたん

月のパケ猫パケたんのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
5.0

『月』   (2023)
  🇯🇵日本  149分


●スタッフ

原作 辺見庸 (小説『月』)
監督 石井裕也
脚本 石井裕也
撮影 鎌苅洋一
照明 長田達也
美術 原田満生
音楽 岩代太郎
劇中アニメーション監督 青松拓馬


●キャスト

宮沢りえ(堂島陽子、きーちゃん)
磯村勇斗(さとくん)
二階堂ふみ(坪内陽子)
オダギリジョー(堂島昌平)
板谷由夏(会沢友子)


●概要

原作小説の『月』は、寝たきりの重度障がい者である、きーちゃんの視点で書かれているらしい
この映画は群像劇であるので、小説とは違う視点で描かれている、緻密かつ大胆に、ムダな場面がひとつも無い、構築の美しさ
さとくんは、神の啓示みたいなものを受けて、障がい者の連続殺人を思いつく、それは、「やまゆり園連続殺人」(2016)の植松聖をベースにした、悲しい物語である
人間の尊厳、重度障がい者、安楽死、痴呆症、東日本大震災、神の不在、死を隠蔽する社会、優生思想等、現在の日本や世界において切実な様々な問題を提起している、端正な映画である


●さとくん(植松聖)の殺人 について
 
まず、此処から押さえる、必要があろう
優生思想以前に、さとくんの行為は間違っている、論理的ではない

・国家予算を憂えて、彼が殺人を行うのは間違っている それは詭弁であり、国家財政を危惧するのは、政治家の仕事である、彼に、その権限は当然与えられてはいない、思考が飛躍し過ぎている

・重度障がい者の存在が、家族の負担にはなると思う、しかし、さとくんは家族では無い、目障りなら、職業を変えればいいだけの話しである
(もし、世の中がもっと進歩すると、自動化・機械化が進み、障がい者介護も楽になるかも知れない、此れは、社会の豊かさの問題であり、優生思想とは、資源配分の問題である、現在はそれほど豊かな世界では無い、設計されてはいない)


●月

有史以来、人類にとって「月」は、夜空の中に、いつも付きまとってくる、詩的で朧気な存在である

・大陽と月の二面性に支配された地球
・潮の満ち引き、女の性の満ち引き
・母なる存在、優しげでルナティック
・人類の踏破すべき場所
・月は地球に、表(おもて)(面)しか見せ 
 ない不思議な存在
・最近では、月は人工物であり、
 隕石の衝突から地球を守って
 くれる存在との説がある

月に見つめられると、不確かな心地がする


●蝶

映画の中、余白のある夜の場面に、一羽の蝶が飛んでいる
振り返って見ると、この蝶々も、儚げで美しい、月のように

この世は、胡蝶の夢なのか❓

冷徹で、かつ卓逸した美に溢れたこの映画は、神の不在を描いており、まるでイングマール・ベルイマンを彷彿とさせる

更に、バーチャル・リアリティ仮説、シミュレーション仮説に繋がるかの、荒涼とした世界観


●ホラー感覚

ふとした瞬間の鏡に映る顔が、恐ろしい

鏡面に切り取られた世界は、まるで、「貞子」のそれのような異空間が、漂っている 大陽と月

更に、鏡面に向かって自らの使命を言い聞かせるようなところは、スコセッシのタッチ

闇が深くて、漆黒であり、そこに根源的な恐怖を感じさせるところは、ポン・ジュノの係累に当たるのであろう


●愛

オシの彼女は、さとくんに、「愛している」と言葉に発することが出来ない、届かない

「絵を描いていれば、ヒットラーは怪物に成らなかったのに」

五感をフルに活用して、刺激を受け止めて、社会と繋がっている事が大切である

そして、家族を愛すること

愛が、回転寿司のように、選択の中から、優生の中から、発生した事物であるにしても

映画の中の、実際の重度障がい者たちを見てみると、異様で、この世の不条理を感じてしまう、世の中、「ホラー」じゃ

月が刃に換わる、危ういプログラミングの中に存在しているにしても、愛と見識を持って、生きていくしかない

恐るべき傑作



・シネマ世界旅行
1 🇲🇳モンゴル『セールス・ガールの考現学』(2021) →【2🇯🇵日本 『月』 (2023)】→ 3 🇭🇰香港 『欲望の翼』(1990)

中洲大洋映画劇場【聖地枠】
大洋3 2023ー121ー98
大洋4 2023ー124ー101