doji

ダム・マネー ウォール街を狙え!のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

なぜ価格が下がるごとに利益が出る仕組みが存在するのかはよくわからないけれど、マネーショートを踏まえた上で本作を観ると、値上がりし続ける保有株の描写にはぞくぞくするのと同時にほんとうに怖くなって震えてしまった。主人公を中心とするゲームストップ株購入者のだれもが普通の暮らしを送る市井の人々であり、その生活を丁寧に描いているものだから、手のひらの中で人生を変えうるほどの額面が表示されることへの震えがこちらにまで伝わってくる。

そしてそれと対照的な投資家たちの暮らしを見ていると、基本的にパーティと不動産購入とテニスと釣りであり、仕事らしいことといえば電話とディスプレイの前に座ることだけ。そんな彼らからすれば少ないとはいえ、彼らと似た不動産を買えるぐらいのお金が登場人物たちの手元に入る可能性が生じた時に、彼や彼女たちが思い浮かべたのはローンの返済のことで、その手触りのあるお金の感覚を胸に抱きながら、株を保有する誓いを立てる姿に、なんだかじーんと感動してしまった。その手はたしかにダイアモンドのように輝いている。

空売りをハックしたキティは資本主義社会のワーキングクラスヒーローだし、確実に歴史に残るのだろうけれど、こんな破綻したシステムをこの先も運用し続けなくてはいけないことへの絶望も残る。キティの公聴会のスピーチを聞きながら、彼の家族の姿が映し出されて、不況と鬱に苦しんだこと、そして姉の喪失の悲しみがまた押し寄せてきて、まさかと思ったけれどものすごく泣いてしまった。

アメリカ・フェレイラ演じる看護師が嘆いていたように、ほんとうに社会に必要な仕事をしている人々が生活に窮するなんて間違っている。労働にはその対価があり、対価は社会が公正に定めるべきで、そこから外れるために資本主義のルールが設定されているのであれば、それは間違っているとしかぼくには思えない。ふつうのひとたちが真っ裸で戦う姿に熱い視線を注いだこの映画を強く支持したい。
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