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ChimeのEikeのレビュー・感想・評価

Chime(2024年製作の映画)
3.4
「嫌な話」である。
ただ、ホラーとして神経に応える要素が満載で、見ている内に物語に絡めとられて行く気配がきちんと出ている辺りは作り手側の巧さが出ている気がした。

料理教室の講師を主人公に、彼を取り巻く世界の中で起きたある「異変」。
そこからドミノ倒し的に異様な事態が重なって行く様を描く「ホラー映画」である。
しかし本作、一筋縄で行かない造りになっていてシンプルな恐怖談として片付けられない不穏さがあって後を引く。

画面に直接出て来る描写に関してはほぼ「サイコホラー」なのだが、そこに「それ以上」の要因が入り込んで来るのがちょっと唐突にも思える。
その為、よく分からない展開にも思えたりして評価が分かれるかもしれない。

本作は実のところある程度年齢と経験を重ねた「大人」に向けたホラーだと強く感じた。
主人公の仕事に対する鬱屈とした意識、肥大した自己認識の度合いや表面上は問題なく見える家庭描写の裏に透けて見える不協和音。そこから醸し出される不快な気配やそれらが主人公にもたらす強い挫折感と嫌悪感。
逃げ出す事も目を反らし続けることも許されない己の人生における「しがらみ」によってにっちもさっちも行かなくなる息苦しさは、大人からしてみれば大なり小なり身に覚えがあるところだろう。

もちろん大多数の人間はその現実と折り合いをつけて日々平穏な生活を続けている訳である。
しかし、ふとしたきっかけでそこに綻びが生じた時、その裂け目をきちんと繕うことが出来るかどうか…実はそれは紙一重なのだ、きっと。
「あちら側」へと行ってしまうきっかけなんていくらでも転がっている、そんな現実はやはりホラーそのものなのかもしれない。

本編の45分というのは中々絶妙な長さで主人公の特異性を描くに当たって急がず、それでいて過剰に説明を足す事も無く(主人公のとった行動、あれが初めてだとは到底思えない事も含めて)コンパクトにまとめられていて良かったと思う。
それと超常現象的な部分に関して一切見せなかった辺りも中々に潔く感じた。
見せないからと言って恐怖を創出できない訳ではない事を改めて見せられた気がした。
料理教室の前を電車が通るたびに反射した日差しの光が薄暗い部屋に差し込む描写やオープニングの空調ダクトの映像と低く流れる音などなど細かな描写の積み重ねの不穏さはホラーの醍醐味を味合わせてくれて良かった。
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