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ボブ・マーリー:ONE LOVEのKKMXのレビュー・感想・評価

ボブ・マーリー:ONE LOVE(2024年製作の映画)
2.7
 マーリー師匠はヒーローのひとりなので、本作は何があっても観なければならないため鑑賞。しかしな…この映画、かなり問題ある。


 ネタバレにはなるが、これはまだ観てない人がカン違いして観に行き、失望する可能性が非常に高いため、ネタバレせずに書いておきます。つまりこれは注意喚起です。


 本作、『ボヘミアン・ラプソディ』みたいにラストに熱いライブで終わりません。ボブ・マーリーの歴史の中でおそらく最も劇的なライブ『ワン・ラブ・ピース・コンサート』が始まる瞬間で映画が終わります!つまり、クライマックスで『ワン・ラブ』とかのライブシーンを期待するとものすごく肩透かしを喰らいます!俺も肩透かしだったよ!とにかく導入部からラストはワンラブピースだな、と読めたので、これはラストに『ジャミング』来るぞ、と期待しっぱなしでしたよ。
 そしてこのライブはものすごく重要なシーンがあります。これは自分も『ボブ・マーリー:ルーツ・オブ・レジェンド』の感想でも書きましたが、対立するジャマイカの2大政党の党首をライブ中にステージに上げて握手させるのです。これ、絶対にクライマックスで描かれると思ったんですよ。これは世界中のあらゆるライブ史上でおそらく最高に劇的なシーンのひとつですよ!
 当時のジャマイカは政情不安で、両陣営のギャングたちが殺し合いをするめちゃくちゃヤバい状況であり、だからこそあのシーンは意味があった。そして2人の党首がどっちも白人であり、だからこそ搾取の構造があって、でも師匠はそれすら乗り越えようとしていることが伝わる、たぶん映画的に最高の場面なんですよ。それがオミットされている。何を考えて作ったのだろうか?

 考えられることは、あの時の師匠が放っているスーパーポジティヴ・ヴァイヴレーション、師匠の福の神っぷりを再現できなかったのかもしれない。あれこそ神降臨でしたので。しかし、それを再現するのが映画じゃん!ラストは実際の映像を10秒くらいチロっと流して終わり。う〜ん。苦肉の策感がビンビンだ…
 とにかく、この作品で、ジャマイカ労働党と人民国家党の党首同士の握手を描かずに終わるのは、??としか言えない。息子のジギーが絡んでいるので、「あれはパピー以外やってはダメ!」となったのかも。ホントなんなの?キツネにつままれた気分ですよ。いまだに映画観終わった感じしないもんね。え、ワンラブピースの、あの歴史的なシーンがこの後来るんでしょ?福の神来るんでしょ?ホントに終わったのか?理解できん!


 本作はマーリー一族が関わっているせいか、妻のリタとの絆がメインで描かれていました。しかし、あんまり上手い描き方じゃない。マーリー師匠はモテモテ人生で、当時も妻公認の愛人シンディとラブラブだったのですが、シンディは出てこず。それっぽい人がチラッと映る程度。しかし、リタはマーリーの浮気(と言っていいのか?ちょっと特殊な関係性だと思うけど)に傷つき、2人がモメるシーンがありますが、シンディが描かれていないのは残念。
 『ルーツ・オブ・レジェンド』でリタはマーリーを庇っていたけど、娘が「母は傷ついていた」とちゃんと語っており、それが反映されていることは素晴らしいと思います。しかし、師匠の暗部を描かずにリタの傷つきだけを描くのは、伝わりづらいよ。すごくいい着目点なのにあんまりだ。


 こんな感じで、単純に劇映画としての出来が悪いと感じました。師匠もリタもバンドメンバーもラスタなので、劇中にしょっちゅうラスタ関連の用語が出てくるけど、観てる人は?だよ。ハイレ・セラシエって誰?ジャーって何?神様?ってなります。ただ、ラスタの前提知識を持って挑めば師匠の生き様も理解できると思います。
 あと、微妙にバンドのリハシーンが多くて、マニア向けだなぁと思いました。名手ジュニア・マーヴィンが加入するシーンとかかなり渋いチョイスでしょ。特に良いプレイを見せるわけでもなく、なんとなく加入するのに結構尺を取っている。バランスが悪い。


 ロック系の伝記映画はすべからく難しいと思います。膨大な資料から、どれを選び、どれを捨てるか。万人を満足させることは不可能なジャンルです。俺は『ボヘラプ』に対して批判的でしたが(フレディ以外のメンバーが掘り下げられず、メアリーとフレディの関係性以外は薄すぎる)、本作を観るとラストでガン上げすれば結構まとまるな、あの戦略は間違ってねぇな、と思いました。逆に『ボヘラプ』がライブ・エイド直前で終わったら地獄ですよ。
 ロック系伝記映画で良かったのはアレサ・フランクリンの『リスペクト』、エルトン・ジョンの『ロケットマン』、そして何気に一番良かったのが、あのモトリーの映画という…ホント、本作のジュニア・マーヴィンの加入シーン、モトリー映画のミック・マーズ加入シーンを参考にすべき!いかにあのシーンでミックの加入がモトリーにスペシャルパワーをもたらしたのかがよくわかります(映画公開後にそんなミックもバンド連中とモメて泥沼脱退してますけどね、そんなエピソードもモトリーらしい最低さで最高!)。あの映画、題材がモトリーなのに死ぬほど無駄のない、よくできた作品でした。


 本作で良かった点は、序盤のスマイル・ジャマイカ・コンサートで、俺っちのフェイバリット曲『War』をやってくれたこと。この時は「キター!このノリでラストは『ジャミング』だな!福の神来るぞ〜!」とか期待しておりましたが、幻に終わりました。
 終劇後、近くの席に座ってたナオン連れのチンピラみたいな兄ちゃんが「クソつまんなかった」と吐き捨ててました、南無三ッッ!


 
【本作で描かれなかった歴史的シーン】
https://youtu.be/KW2S8eEdHwk?si=tQR3jk0PqRi8RDZc
『ルーツ・オブ・レジェンド』の感想文でも貼っ付けておきましたが、ワン・ラブ・ピース・コンサートで、対立する政党の党首同士を握手させる師匠。師匠のルックスは福の神そのもの。再現してくれよ!
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