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ルナ・パパのKKMXのレビュー・感想・評価

ルナ・パパ(1999年製作の映画)
4.5
 タジキスタンの鬼才・フドイナザーロフ監督のおそらく代表作たる本作。いやいや、すげぇパワーが炸裂しまくりの傑作でした。よく言われるようにクストリッツァとの類似性は指摘できますが、自分が観た2本は両方とも女性が主人公で、性差別や抑圧が描かれており、フドイナザーロフの方が現代的な印象があります。
 本作は内戦や戦争の最悪ぶり、閉鎖的な地域ゆえの抑圧がバッチリ描かれていながら、どこか明るくエネルギッシュで、しかもクライマックスではマジックリアリズムが炸裂するというサイコーぶり!こう書くとまんまクストリッツァなんですが、いわばフドイナザーロフはフェミニズム的視点が加わったクストリッツァと言えるかも。この視点が入るだけでただのフォロワーではなく、オリジナルなアートになっていると感じています。


 内戦が続くタジキスタンの田舎町。演劇が大好きはマムラカットちゃんはアッパーな父親と戦争で脳に障害を負った兄と3人暮らし。ある夜、シェークスピアの劇を観に行ったマムラカットちゃんでしたが、遅れてしまい劇を観ることができませんでした。失意の中、マムラカットちゃんは暗闇で俳優(?)に誘惑され、相手の姿をろくに確認せずに結ばれて、いきなり妊娠します。マムラカットちゃんは堕胎手術を試みますが、手術直前でドクターが内戦に巻き込まれて横死!マムラカットちゃんは赤ちゃんを産むことになりました。しかし、彼女が住む村は死ぬほど閉鎖的!シングルマザーというだけで襲撃対象になるほど。そのため、一家は種父探しに奔走する…という話。


 本作で印象に残るのは、内戦への怒りとそのメタファーでした。歴史的な背景に目を向けると、ソ連が崩壊した後、構成していた共和国の多くで激しい政争が起きました。タジキスタンはそれが激化して内戦が勃発。90年代は内戦続きで、多く見積もると10万人くらい亡くなったそうです。
 本作の舞台も内戦下のタジキスタン。車を走らせるといきなり軍隊がやってきて乱暴に持ち物チェックをする等、軍が偉そうにしていることが窺えます。そんな中で軍人に銃を突きつけ拉致するマムラカットちゃんの親父のパワーもスゲーですが!そもそも、マムラカットちゃんが演劇に間に合わなかったのも軍隊による引き留めが原因です。
 物語の後半で大きな悲劇を生み出す、空から降ってきた牛事件も、爆撃のメタファーでしょうね。容疑者の当初から見せていたきな臭い動きとかも、戦争に絡んで利益を得る連中へのdisりが入っていると思います。


 そして、シングルマザーを縊り殺そうとする村の連中の異常さは衝撃的です。イスラム圏では未婚の母はタブーのようで、内戦により人心も荒廃してこういう雰囲気になるんでしょうね。
 そんなムードを打ち破る、ラストに登場するサイコーのマジックリアリズム!ここではないどこかを切望する願いが、ユーモラスかつパワフルに描かれていると思いました。そして堕胎せずに誕生する赤ちゃんがナレーションをやっており、そのカオスかつ超絶ポジティブな設定もイカします。
 マジックリアリズムはマムラカットちゃんの妊娠シーンもそうで、崖を滑り落ちて妊娠ってのはなかなか過ち的な恋のイメージを上手く描いていると感じました。


 音楽も良かったし、ホントに観応えあるガーエーでした!こういう超面白い非西欧圏の映画を、出来ることならバンバン配信してほしいですねぇ!
 

 ちなみに、ブルースタジオ、観客20名以上!明らかにコロナ禍以前よりも集客があるッッ!ちなみにコロナ禍でも集客は落ちず、だいたい5〜6人でしたが、2023年あたりから10人以上入る回が明確に増えています。これは…2100年代になればブルスタ、観客100人超えるかも知れぬッッ!🎉
(ブルスタ、キャパは295席)
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