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コシュ・バ・コシュ/恋はロープウェイに乗ってのKKMXのレビュー・感想・評価

4.0
 初フドイナザーロフ。タジキスタンの映画自体多分初めてです。なんとも不思議な手触りの作品で、少しクストリッツァに似ているけど、あれほどギトギトはしておらず、全体的に清涼感があります。
 とはいえ、内戦真っ只中の物語であり、登場人物は家父長制デフォルトなのでいろいろと考えさせられるガーエーでもありました。


 内戦バリバリのタジキスタンに、都会から自立した女性・ミラが帰郷しました。しかし、父親はギャンブル狂で、ミラは借金のカタにされそうになります。
 すると、ミラに惚れたスケベな男・ダレルがミラを誘って逃避行!ダレルはロープウェイのオペレーターで、ミラと操作室で過ごすようになります。とはいえ、このダレルも家父長制以外を知らない人なので、都市的な価値観を持つミラとはすれ違っていく…というお話。


 物語の初めに『すべての女性に捧ぐ』みたいなコピーが登場し、ミラが男たちの言いなりにならない感じは、ある意味フェミニズム的文脈にある映画のような印象を受けました。印象深いのはスケベ男・ダレルがロープウェイの中でミラを食事でもてなす時に「女は男に従うものだ」と超無邪気に言い放ち、そしてミラが笑顔で食事を外に落として捨てるシーンです。
 ダレルはスケベですが、あんまり有害男性感は伝わりません。おそらく、21センチュリーの都市部で育てば相手の気持ちを配慮する青年に育った可能性が高そうです。なので、この地域は文化として家父長制が定着し、そのアンチテーゼ的な価値観も入って来ていないのでしょう。ダレルの友人と名乗る男がミラに別れるよう詰め寄る等、どうしても女性は男性の所有物感が否めません。
 ミラは当然そんなモノに流されることはないのですが、恋愛関係のダレルへの揺れる気持ちが見え隠れして人間の複雑さをしみじみと感じました。ダレルは家父長制に毒されている上に中2男子くらいスケベですが、ミラを純粋に好いていることが伝わります。それ故に、ミラはこの男と一緒にいても良くないと感じつつ、情に揺さぶられて行動指針が明確にならない。この雰囲気はとても味わい深く、映画としての醍醐味を感じました。

 あと、内戦中だからか、抑圧されてるっぽい少数民族の難民が結構出てきます。特徴的な民族衣装を纏い、キャンプみたいな場所で集団で生活しています。女性ばかりで、男たちは戦争で死んだか、戦場にいるのか、そんなことを嘆きながら話すシーンも出て来ました。ググったところ、民族衣装から彼らはヤグノブ人っぽいです。合ってるかどうかはわかりませんが。ミラが普通にキャンプでボランティアに励むシーンは、ミラの人間性や都会的価値観が伝わるため、何気ないですが印象深いです。

 この地域に住む人たちの教育水準の低さ等も印象に残ります。コミュニケーションが怒鳴る、殴る。これは『Do The Right Thing』でも同様の状況が出てきます。代々このような対人戦略が伝統的に継承されていて、しかも貧困で内戦が重なったため、ストレスが高くこのパターンがより強固になってるんでしょうね。キアロスタミの『ホームワーク』でも子どもは男児ばかりでしたが、本作でも学べている子どもは男児ばかり。そんな中で都会に出て学を修めたと思われるミラはかなり超人なのでは、と想像します。
 最近の若者は優しいとよく言われていますが、教育現場から暴力(教師からの体罰・あんなモン暴力と表現すりゃ十分だろ)が追放されたり、児童虐待の意識が国民に浸透したためだと思います。暴力を受けて育てば暴力を学ぶし、家父長制の元で育てば家父長制を学びます。人間が変わるには社会通念が変わるしかなく、それが為されるには平和と経済的に安定した環境が不可欠でしょう。ダレルはクズ野郎ではありますが、嫌いになれないのは育った環境の被害者としての側面がデカい印象が強いからです。たぶん、現代日本の経済的に安定した都市部で育てば、ダレルかなりナイスガイになったと思いますよ、本質的に優しいし。ただ、スケベは変わんないだろうけど。

 エンディングのショットは、こちらも何となくキアロスタミを連想しました。話の展開も欧米の映画とは異なる味わいで、なかなかクセになりそうな感覚です。


 本作は久々にホームであるブルースタジオで鑑賞しました。お客は9名。かなり混んでます。いつも座っているお気に入り席がありますが、今回は先にオッサンが座っており、座れませんでした。しかしまぁ、コロナ後の方が平均客足伸びている印象があります。コロナ前は5〜6人がデフォだったような。この調子で伸びれば300年後くらいには夢のフルハウスも不可能ではないッッ!(ブルースタジオはキャパ295席)。

 当然、鑑賞前には惣菜かざまで揚げ物を買い食い。何とコロッケが30円→50円に値上げ!とは言え、値段はぶっちゃけ50年くらい前のレートです。値上げしても安い!メンチ、アジフライ、コロッケ、揚げ餃子を食べて挑みましたが、流石に胃もたれしたね!安いからついつい食べ過ぎてしまいます。

 ちなみに自分が観たのは4Kリマスターではないです。ブルースタジオらしく35ミリフィルムで、パリパリとしたノイズある映像を堪能しました。それも含めてやはりブルースタジオは良い!
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