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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のKKMXのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

 これは多分合う、と直観を信じて鑑賞。なかなか良かった、後半楽しみです。
 原作未読です。21世紀のマンガは闇金ウシジマくんとプロレス地獄変、刃牙くらいしか読まないので存在も知らなかった。浅野にいおは吉田豪関連でたまに名前を見る程度。吉田豪と一緒にテレビに出て、言い過ぎた結果離婚につながったという情報だけは知ってた。こういうマンガを描く人だったのか。

 前半だけでは考察も難しいので、後半観てからまとめてアプろうと思ったが、気になることがあったので備忘録的に書いておきます。


 パラレルワールドとは何か。


 本作は後編を待つまでもなく、原作知らなくともパラレルワールド系(タイムシフト系?)であることは一目瞭然。そのため、パラレルワールドについていろいろ考えたくなりました。
 並行世界の物語は近年多い印象です。転生モノとか、昔はあんまり聞かなかったし。その理由はおそらく現実が多次元化しているからでしょう。
 SNS、オンラインゲーム等、テクノロジーの進化によるものや、同一の職場で働かない仕事の仕方等も広がってきており、現代は刺激量も情報量も多いため、空想に逃げ込んでレギュレーションしていく率は過去の時代よりも高いように感じます。同じ世界でずっと生きるというよりも、さまざまな世界を交錯しながら生きていくのが人類のデフォルトになりつつあると思います。

 これまでのパラレルワールドは、『行きて帰りし物語』が多かったと思います。千と千尋とか、君たちはどう生きるかもそうだし、君の名はなんかもパラレルワールドでしょう。
 しかし、ジブリや新海はベース世界があります。つまり、パラレルワールドから戻るのが基本。

 しかし、本作は現状、どちらの世界がベース世界なのか不明です。

 謎の宇宙船が現れて日本政府が国民そっちのけで戦う世界がベースなのか、回想というテイで出てきた主人公・門出がドラえもん的な宇宙人?の道具を用いて正義を暴走させた(これってまんま藤子Fの『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』だ)世界がベースなのか不明なのです。
 このような、何がベース世界なのか、ベース世界での成長、変容のためのパラレルワールドでの体験という構造を持たないパラレルワールドの話は、非常に現代的だと感じています。

 そして、本作だとどちらの世界もディストピアなので、その辺も後半を待ちたい。シフターという言葉が出てきました。シフトとは同じ種類の別物に変えるという意味もある。そのため、おそらく門出が力を得て暴走しない世界を、もうひとりの主人公・おんたんがシフトさせた的な展開と考えられますが、その結果も結構なディストピアで友人もひとり死んでいる。この辺の無常観もやり直し的並行世界は似たり寄ったりだ的なリアリズムを感じます。


 パラレルワールド以外でも、21世紀型の現実のバランスが一瞬で崩れて、日常が失われて強い負荷の元で生きていかざるを得ない現実が見事なメタファーで描かれていました。ファンタジーですが、ものすごくリアルです。
 特に不安でおかしくなる連中の描き方が秀逸。門出の母親とかホントにリアルです。不安でおかしくなってるからキャパゼロで、キーキー発狂する姿もリアルすぎる。まぁ発狂止まりで門出に移住を強制しないところはまだ良心的だが。母親の彼氏(門出の家は現状シングル、前は違ったか)はいい人っぽいけど、父親と呼んで欲しいと願う感じがステップファミリー的に上手くいかないだろうなと感じさせたりと、細かいヤバさを的確にブッ込んできて好感が持てました。
 小比類巻くんもヤバくていいです。不安すぎてビジランテ結成とか、後半楽しみすぎる。現実だと、N党〜Q系〜参政党とかの陰謀論流民になりそうなタイプ。持論を持たずネットの妄言だけを頼りにしている頭の悪さもリアルでした。

 まぁ彼らは皆、宇宙船がやってきて今後どうなっていくのかわからない非常にストレスフルな現状、すなわち日常がすぐに崩壊する現代社会そのものに対して、強い不安を抱いて抱え切れなくなってしまった人たちなので、それも切ないですね。表面を見ればただのイタいバカですが、少し深掘りすれば、やり切れない背景が垣間見える。
 また、門出やおんたんたちが友人を失いつつも大学生活に向けてキャッキャ言いながらお買い物するのもまたリアルといえます。不安と直視すると不安に飲み込まれて、門出の母親とか小比類巻とかみたいに容易に闇堕ちするので。
 微妙に田舎/都会格差も描いており、田舎でマイノリティ的な自分を生きることが難しい様子もチラリと描かれていたりと、細部のヤダ味のリアルさは見事な感じでした。

 とは言え、むしろテーマは泥臭く、古典的なヒューマニズムに回帰していると言えそうです。大切な人を護る、みたいな本部以蔵かピエール中野か、みたいなことを言い出しており、これはすなわち他者への想像力を持ったつながりのことでしょう。相手を思いやれば自然と支える方向に行動が変わりますからね。

 何にしても後半楽しみ。あとテーマ曲良かった。ボーカルがサビでちょっとフィル・アンセルモのような咆哮を上げるのがガチな感じで良い。
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