真田ピロシキ

包帯クラブの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

包帯クラブ(2007年製作の映画)
3.4
きのこ帝国のにわかファンとしては役者時代の佐藤千亜妃を何としても見たい。堤幸彦は嫌いなのですが千亜妃がそこそこ大きい役で苦労せずに見れて一番まともそうなのがこれでした。千亜妃映画としては大変満足。数年後に役者に見切りをつけてオルタナティブロックバンドで台頭する萌芽を役から確かに見いだせる。これ一番尖っていたeurekaを出してた頃の原型でしょう?あいつをどうやって殺してやろうか。2009年土砂降りの夜にそんなことばかり考えていたのでしょう?役者として上手いのかは正直わからなかったけれど求めていたものは間違いなく見れた。

若者の傷心や閉塞感がテーマの本作。多用しすぎてそろそろダサく感じてきたのですが今風に言うなら「エモい」って言葉を求められる映画でありながらその辺はやや淡白。これが中島哲也や豊田利晃ならもっとギザギザしてると思うんですよね。ある人には刺さるがある人には跳ね返される極端さを持ったやつが。堤幸彦だと見やすい代わりに深く抉るものが少なく、こういうこと描いておけば若さや社会の疵を表現できる。そんな計算高さを先に感じてしまってイマイチ。カミングアウトの軽さ(これは日本映画では今もあまり変わってないかもしれない)や警察のコミカルさなどシリアスにやろうとしている部分と大衝突しててそのアンバランスには醒める。全体的なクサさと台詞に頼った野暮ったさはネガティヴに捉えられる日本映画の類型と見える。

しかし本作は役者の起用で成功してると思う。石原さとみの早口気味で大仰な芝居が何者にもなれそうになく自分の型にハマろうとしている高校生を感じられる。「だからリスカじゃねーっつってんだろ」と時折見せる荒さも世間に対して演技してる人間を演じられてて良い。それと柳楽優弥。この頃は『誰も知らない』で有名になった後いろいろお騒がせてて評価が定まっていなかったように記憶している。そんな危うさが今見ると本作のナイーブな役に一致する。最近名前をよく耳にする田中圭がメインキャストで佐藤千亜妃同様に実は結構今の需要を掘り起こせる映画かと思う。

舞台となっているのが都会過ぎず田舎過ぎもしない高崎なのが特筆する非凡さのない若者の焦燥を掬い取れていると感じられて東京や大阪と違って何者かになれるかもという根拠のない幻想を抱ける余地があまりない。大多数の人間に取っては地方の方がリアル。きっとあまり記憶には残らないけれど悪くない。2時間ずっとスマホに脇見する事なく見続けられただけでも自分的には高評価ものです。