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ほかげのKtoのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
3.5
戦後の街を舞台に、売春で食い繋ぐ女性、盗みなどでその日暮らしを続ける少年、戦時の痛々しい記憶に苦しめられる帰還兵達を生々しい質感で描いている。

▫️戦争は終わっても、戦禍は終わっていない。
前半は、売春を行う居酒屋が舞台の密室劇になっている。戦時の記憶で悪夢にうなされる少年、銃声でPTSDの発作を起こす兵士が痛々しいほど鮮明に描かれている。
わずかに開かれる入り口の外には、瓦礫が積み重なっている。

戦争で実の家族を失った女は、彼らを新しい家族として迎えようとするが、精神的に深く傷を負った兵士は発作的な暴力を起こし、再び不幸な道を辿る。
束の間の安定時に、彼は元教師としての真摯な性格を見せていたのだが、それを粉々に変容させる戦争体験の強烈さが間接的に表現されている。

女は藁にもすがる様に、食べ物を持ってくる少年を手なづけようとするが、その年齢差や境遇も考慮すると、平時では考えられないような関係性である。戦後も平時の常識が通用しないのだ。

▫️兵士の記憶
後半は森山未來演じる帰還兵と少年との旅的な章となる。
背景は語られないが、弾倉の扱いの上手さからは彼が最前線で戦っていた兵士だとわかる。
旅の最後に目的を果たすシーンは、太平洋戦争の飢餓地獄・ニューギニア戦線での部下射殺事件の責任者を追及するドキュメンタリーである「ゆきゆきて、神軍」を思い出した。
また、監獄の様な窓の中で、子供たちの騒ぎ(幻覚かもしれないが)に頭を抱える男性になにかを諭すように話すシーンもある。

戦争が終わっても、戦争によって心身共に傷ついた人は無数に残っているし、それでも生きていかなければならない…。
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