しの

ナポレオンのしののレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.2
ナポレオンを愛に翻弄された男として滑稽に描く突き放し方は良かったし、じゃあそんな彼に翻弄された兵士たちは……というラストのテロップ含めこの監督らしい味わいではある。ただ、個人的にはもうちょっと滑稽さに振って欲しかった。今回はあえてのアンチカタルシスというより、単に淡白だった。

歴史的なイベントがとくに説明なく次々と進んでいくし、ナポレオンについても詳しい心情説明はなくただただ愛に飢えた男として(それも客観的に)描写されるのみ。これにより、「これだけのことをやった人の根源はもしかしたらそれだけのことだったのかも」という凄みをむしろ感じはする。この体感は間違いなく、金をかけたリッチな映像が、しかしそれ自体が主体ではないかのように客観性をもって提示される作りによるところが大きい。ワーテルローの戦いの満を持して感はあるし、実際壮大さも半端ないのだが、ナポレオン自身も追い詰められることがどこか分かってたように描くというドライさがある。

ただ、これならもっと見た目のスペクタクルとその内実の滑稽さのギャップを際立たせるような語り口を徹底して欲しかった。『最後の決闘裁判』のあの虚無なスペクタクルの凄みを見せられた後だと、なおさら物足りなく感じる。虚無にも滑稽にもなりきってない中途半端さを感じてしまった。

たとえば、再婚した途端に後継が生まれる超ハイテンポ展開からの、生まれた子どもを元妻に見せにいく臆面のなさと悲哀のおかしさ……みたいなところも、本当ならもっと滑稽な味わいが際立つシークエンスだと思うのだが、なぜか生真面目さが勝ってしまう。ナポレオンをどう見せたいのかはっきりしない。

主軸をロマンスに置き、数々の大戦はそこに付随する形で説明なしに捌いていくという構成からは、少なくともこの作品がナポレオンをどう提示したいかのスタンスが見えはするものの、前述のようにそれが演出レベルまで落ちてきてないようなもどかしさがあり、エッジが立たない作品になっていると感じた。
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