つかれぐま

ナポレオンのつかれぐまのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.5
23/12/13@TOHO新宿❼

「英雄」を笑え。

波乱にとんだナポレオンの生涯をほぼ全て見せてくれた。合戦シーンも多く、シネスコ映えする大サービス。そんな惜しげない大作なのに、なぜか物足りない不思議。

「ナポレオンはジョセフィーヌの愛を勝ち取るため、世界征服に打って出た。愛が得られないと悟った後、征服の目的は彼女を破滅させることに変わった。その過程でナポレオン自身も破滅した」
リドリー・スコットみずから本作をこう解題しているが、そういう映画にはなっていないのでは?

平民出身で戦争の天才と言う「英雄」
多くの死傷者を出した「戦争犯罪人」
マザコンで歪な夫婦だった「弱い男」
この多面性を見せたいのは分かるが「人生ダイジェスト」のような作りのせいで、これらが有機的に(映画的に)結びついてこない。言い換えれば同じ人物に見えてこないのだ。いわば意図されたファスト映画なので、見易く長さを感じないという利点もあるのだが。

どうしても比較したくなるのがキューブリック『バリーリンドン』。英雄譚ではなく「小さな男」の話に仕立てたのは『バリーリンドン』の換骨奪胎。但し画作りは対照的。本作がバキバキな「デジタル」画であるのに対して、先達はなんとも柔らかで当時の絵画を思わせる「アナログ」。これは好き嫌いだが、この時代の欧州を描くにはアナログが似合うのでは?と思わずにいられなかった。

今年はスピルバーグ、スコセッシと巨匠が相次いで復活した年だったので、期待が大きすぎたかも。ただ観る側の焦点をナポレオンの矮小性に絞れば巨大なスケール(大き過ぎだが)のコメディとして楽しめる。