杉咲花が圧巻だった。
“自分”として生きるために彼女は“何者”になったのか?時に儚げに愛らしく、時に感情を失ったかのように怖ろしく。
逃れられず一線を越えざるを得なかった。
幼少期の過酷な運命を背負って生きるために失ってしまったものは大きい。同情はするけど、彼女のすべてを肯定できるわけではない。
邦画では稀有に感じるほど主人公があまりに多層的で素晴らしい。彼女の全ては語られず、観客は彼女の人生を想像する。
命の重さゆえに展開として気になってしまう点もあった。それでも、市子をめぐる様々な人物たちの目線から、しだいに彼女の過去や人物が明らかになっていく本作に胸を強く揺さぶられた。
空虚な眼差し、屈託の無い笑顔、柔らかな関西弁。“市子”の生きた感触がずっと頭に残っている。