emily

市子のemilyのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.9
3年間一緒に住んでた恋人・市子がプロポーズを受けた翌日失踪する。しばらくして警察から市子の捜索をしていることを知らされ、恋人の長谷川も市子の友人などから話を聞き、徐々に彼女の本当の姿が浮き彫りになってくる。

バイクの走る音から市子の走る音、ピュアで笑顔の可愛い市子に何があったのか。徐々に見えてくる真実は、想像を超えるものであった。

市子が過ごした何気ない日々の3年間。彼といたそのかけがけのない3年間が市子の救いで、すべてだった。でも、当然ずっと続くわけもなく、彼女は生きるため、生きていくため様々な選択をするしかなかった。

その選択は当然正しくはない。しかし、観客は彼女に感情移入し、その現実に胸が苦しくなるだろう。あの時母親があんな選択をしなければ、彼女の今は違ったのかもしれない。

愛した人と結ばれることもなく、今度こそは新しい人生を手に入れられるのか。当然、犯罪の上に成り立つ幸せなどない。そんなことは彼女だってわかってる。束の間でもいい。自分でいたい。私でいたい。

音は鼻歌だけ、そして市子の、彼女のピュアな笑顔だけがどこまでと透き通るように美しく鼻歌とともに頭に響いてくるのだ。巧みなミスリードで、彼女のサイコパスな部分が見え隠れしても、ピュアさが頭に残る不思議。

最後に突き放された気分になる、なんとも強かで、なんとも恐ろしい。ほんとの恐ろしさが見えてきた時、それでも市子に肩入れしてしまう、見事なまでの杉咲花の演技。

見終わった後もしばらく立ち上がれないでいた。
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