わがはい

悪は存在しないのわがはいのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

やはり何はともあれ衝撃的なラストを語らぬわけにはいかない。
偽悪的に言い方を変えれば、ラスト数分以外の時間はお得意の長回し含めいささか冗長であるようにも感じたし、ラストの衝撃がそれまでの美しい映像や味わい深い台詞を台無しにしたとも言える。

予想外の結末とはいえ、タイトルの「悪は存在しない」に集約されていく。
解釈は人によって分かれるだろうが、もっともバイアスを排して推察すれば、、

・花は猟銃でケガを負った鹿を助けたかった(悪は存在しない)
・高橋は眼の前の花を助けようと咄嗟の行動に出た(悪は存在しない)
・巧は手負いの鹿が攻撃的なることを知っていたことから刺激しないために高橋を押さえつけ、それでも抵抗する高橋を致し方なく絞め落とした(悪は存在しない)
・鹿は身を守るため、ケガを心配して近づいた花に危害を加えた(悪は存在しない)

高橋と花の生死については観る者に判断を委ねる形でエンドロールに移る。
またここに至るまでにいくつかの伏線があり、巧が自身を便利屋と呼んでいるところや、写真だけで登場しない母親、なぜか高橋と薫の絵を花を無視してまで一心不乱に描くシーン(ココが一番ホラー)など、深読みしようと思えばいくらでも出来てしまうのだ。

そして唯一絶対悪として描かれている芸能事務所社長やコンサルですら、普段サラリーマンとして働く人間なら悪者とは見なせないだろう。

グランピング説明会での巧の言葉通り、すべての物事は絶妙なバランスの上に均衡を保っていて、高橋はいい奴だが最後まで本質を掴めず、踏み込んではいけない領域に立ち入ってしまったように思う。(まぁ絞め落とした巧も鹿に近づいた花もなのだが・・・。)

総じて評判通りの傑作であるが、少し前に三宅唱監督の『夜明けのすべて』というリアルと作品性のバランスにおいて非の打ち所がない大傑作を観ていたこともあり、本作のラストはいささか大味に感じてしまうのだ。
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