TakahisaHarada

悪は存在しないのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.9
序盤はやたら長い森のショットとか巧、花、峯村夫妻たちの暮らしの風景とか、誰が何してんの?という気持ちで観ていたけど、グランピング説明会のシーンから話が動き出して面白くなっていった。その後の高橋、黛の中央道での会話シーンも良くて、説明会のシーンとは対照的に2人の人間味を感じられたし、仕事の愚痴、今後どうする(仕事、結婚…)とか同僚との会話としてめちゃくちゃありそうだなと思って見入ってしまった。

Playmodeオフィスでのコンサル登場シーンは、構造化したりエビデンスを示したり、それっぽい仕草を通じて水挽町のことを全然理解していなかった高橋、黛よりさらに低い理解度を露呈していくのがおかしくて笑ってしまった。
社長とは違って何の責任も負ってないノーリスク(準委任)かつ自分たちの行いが下流まで流れ着く頃にはもういなくなっていてフィードバックを得る機会もなかったりするので、上流を自認していながら駿河区長が言うところの「上流の振る舞い」がなかなか身に付かないのがコンサルの悲しい性だよなと思ったし、一方でノーリスクゆえ悪になれる(構造改革、人員削減の推進とか…)のがコンサルの価値だよなとも思うので、この物語にコンサルが登場することに妙な納得感があった。

ラストの展開は本当に驚き。高橋の言葉そのまま「何すんだ」という感想で、観終えた後長いことあれは何だったのかと考えてしまった。
花に関しては単にあの鹿を助けようとして襲われてしまったということだったのかなと思った。帰り道に鹿の骨を見付けて、撃たれて動けなくなって力尽きたんだろうと聞いたことがキーになっていて、加えて巧から野生の鹿に触ってはいけないとも聞いていたので帽子を使おうとしたのかな。失踪前の行動は牛の餌やりで、動物思いの子なんだというのも伝わる。
分からないのは巧の行動で、高橋を制止するぐらいなら花自身の行いに任せたいから邪魔するなという理解ができるけれど、あそこまでした理由が分からない…。

何となく想起したのは「パラサイト」のソン・ガンホ演じるキム家の父で、富裕層のドンイク社長に何かされたわけではない(娘ギジョンを刺したのは地下に囚われていたグンセ)けれど、ドンイク社長の「においが度を越しやがる」発言や騒ぎの中での振る舞い(においに顔をしかめる)が重なって最終的に刺してしまう。
薪割りが気持ち良かったという「ストレスを投げ捨てる」的な感想、管理人をやってくれという見下したような提案、鹿はどこか別の場所へ行くというバランスを軽んじた自己中心的な考え、巧の気に障るような発言は色々とあったと思うし、花が襲われて自分も「半矢の鹿の親」になったことも影響していたのかな。
水の流れが重要な意味を持つというところも「パラサイト」と共通してる。

花失踪後の峯村夫妻と駿河区長の様子も不思議で、どっちも「大変だどうしよう」というよりは「起きてしまったか…」的な様子に自分には思えた。その背景に何かあるとしたら作中でまったく説明されない花の母の存在のような気がするけど、何があったのかは分からず…。

うどん屋での「それ味じゃないですよね」は笑いが起きてたけど、高橋への悪印象はあるにせよそこ突っ込むの野暮でしょと思ってしまったな…。普段食レポ見ててもうどんの感想なんか大体食感だし、客が好き勝手薬味とか入れて食べる部類のメニューだし、高橋の空回り具合の面白さよりうどん屋が何言ってんだ感が勝ってしまった(自分が味音痴なだけの可能性あり)。その後の「大丈夫、人手はあるから」は笑ったけど笑いのツボは合わないかもしれない。