ギルド

悪は存在しないのギルドのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
【森羅万象への対話と均衡が変わるとき】
■あらすじ
長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。
代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。

しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

■みどころ
面白い。
グランピング建設を巡った村人と芸能事務所の人らのお話。
映画は水挽町の自然に囲まれた生活を中心にグランピング場を作ろうとする人々、その話を聞いた村人らの関係性を中心に展開していく。

まず映像が壮大で美しい。
VIDEO Salonでのインタビュー(https://videosalon.jp/report/202405_aku/)ではグレーディングにかなり気を遣って自然光を一番綺麗に映したり、時間経過への連続性を意識したグレーディングを実施しているとのこと。
その甲斐もあって木漏れ日や湖の映像はとにかく美しくて、日本のロケーションでここまで美しく神秘的に映している映像も中々ないと思う程度に圧倒されました。

しかも単に美しい映像に留まっておらず、ストーリーの展開であたかも「森羅万象と対話する」という背景が潜んでいるのかな?と思うほどストーリーと繋がりを持っていてそこは流石だなと思いました。

この映画は対話の映画である。
対話、特に何かを決めるシーンにおいてはそれぞれに立場・考え・信念を持つことが多い。言い換えるとそれぞれに正義がある。
この映画では誰もが正義を内包し距離を詰める・参加しながら対話とバランスを取る難しさを描いている。
その対話には日本特有のコミュニティに属しているが故の判断でもあり、それに振り回される当事者の苦悩を描いていてリアルだなと思う。
その一方で前作『偶然と想像』のような対話がタランティーノ映画の会話並に面白いし、『ドライブ・マイ・カー』のような車での対話には一種の「本音」が垣間見えるシーンもあって濱口監督らしい映画に仕上がっていて面白かったです。
そんなリアリズムの一方でスピリチュアルなシーンも存在する。
詳しい出来事は省略するがある存在と同等の人物、彼に靡く人物に影響するスピリチュアルな対比を描くのが興味深い。

総じて現代社会の対話が大切な社会性と神秘なモノに手を加える事への怖さ・寓話を両立してる部分はスタイリッシュな映画だと思う。

ただ個人的には「この題材で枠収まってなくね?」感はする。
神秘性故に映画で答えを出す安直さはアカンよなメッセージなのかもしれない(?)
音楽的で瑞々しい作品なのかもしれないが、それならゴダール的な音楽を止める緊迫感とか糞コンサルとかが出しゃばってる気がする。

下世話なコンサルには私怨じみた何かがあったのは草でした。
ギルド

ギルド