おりん

悪は存在しないのおりんのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.9
人が抱える苦悩・苦労は自分の中でしか分からないとひたすらに痛感した。善悪の境界線は、結局人が決めているものなのだろう。立場というか、自分の考えを問われる作品だと思う。話や人間の歪んだ部分の描写が淡々としながらもリアル…

水挽町の住民、そこで暮らす父娘、グランピング場設立をする芸能事務所の人間、どの立場においても、抱えている想いや疑問があり、正しさの定義もそれぞれ。中でも、好奇心旺盛な少女の存在が特に大きいと感じた。少女の行動と判断は、育った環境や経験も影響しているかもしれない。

自分は今作で、対話が大切なのかとずっと考えてたけど…。でも、あの結末を踏まえて冷静に考えても違うような気がして。自身・家族の事情、抱えている想い、正義や救いが何かは共有した者にしか理解できないと思う。自分が「救いたい」「支えたい」という想いは、エゴにしかすぎない。

今作で何が正しいのか、正すべきだったかなんて断言はできないんですよね。善悪の境界線がそもそも曖昧なものだから。今作を観て、それを改めて認識しました。

住民や事務所側の人間、父娘に対して様々な思いが胸の内にあるけど、これはあくまで私の印象にしかすぎなくて。人それぞれ感じ方や捉え方は変わってくると思いますし、印象で決めつけるのは危ういと感じています。現実でもそう。第一印象で決めつけて、他人を傷つけたり歪みが生まれてしまうことがあるから。

また、今作は「都会と田舎の対立」「展開に関わる巧みな台詞」とわかりやすい構造になっているのも、この作品の魅力だと思います。感情や場面の緩急がありながらも展開に入り込めたのは、物語や台詞のシンプルさも大きいかもしれません。

だからこそ、展開が急変し唐突に終わるラストが衝撃で、一瞬にして胸がざわつきました。行動も末路も謎めいており、もやもやもありましたが、最終的には虚しさを感じました。

不穏さと曖昧な境界線と歪みを感じた後味悪さと、自分には想像することしかできないという虚しさが、余韻として長く残り続けています。
おりん

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